残存するものが自らの運命を説明しているように見えることもある。たとえばモンテヴェルディのオペラ『アリアンナ』のうち現存するのは、よりによって絶望したヒロインが歌う嘆きの歌だけである。「私を死なせて。かくも辛い運命、かくも大きな苦しみの中にいる私を、だれが慰められるでしょう。私を死なせて」 現在は複製が残されているだけのルシアン・フロイドの絵は、オランダ・ロッテルダムの美術館から盗み出され、その泥棒の一味の母親によってルーマニアで風呂場の薪としてくべられてしまったのだが、その絵は目を閉じた一人の女性を描いており、彼女が眠っているだけなのか、あるいはもう死んでいるのかは定かではない。悲劇詩人アガトンの作品のうち、いまに伝えられているのはわずかにアリストテレスが引用した二つの警句のみ。「芸術は偶然を愛する。偶然は芸術を愛する」「神々ですら過去を変えることはできない」
その神々にも禁じられた事柄を、独裁者たちはいつの時代も繰り返し要求してきたように見える。彼らの破壊的な創作欲にとっては、同時代に自分の名を刻むだけでは不十分ということだ。未来を支(end17)配しようと望む者は、過去を廃さなければならない。新たな王朝の祖、あらゆる真実の源を名乗る者は、先駆者たちの記憶を抹消し、いかなる批判的思想をも禁じなければならない。「秦の最初の神皇」を自ら名乗った秦始皇帝がそうだ。彼は紀元前二一三年、記録に残る最初の焚書の一つを行わせ、逆らう者はすべて処刑するか、道路網や万里の長城、または巨大な陵墓を建設するための強制労働につかせた。この始皇帝陵の誇大妄想的な副葬品には、等身大の兵士、戦車、馬、武器からなる素焼き粘土製の軍隊も含まれている。その複製品が今日世界中に流通していることは、他に類を見ないほどの世俗化をも意味し、後世にまで自らの偉大さを示したいという皇帝の野望は、達成されると同時に骨抜きにされてもいる。
過去を白紙 [タブラ・ラサ] にするという怪しげな計画が、もう一度一から始めたいという理解可能な願望に端を発していることは珍しくない。十七世紀なかばの英国議会では、ロンドン塔の公文書庫を燃やすことが真剣に議論されたという。「過去のすべての記憶を消し去り、新たに人生を始めるため」だというが、ホルヘ・ルイス・ボルヘスがサミュエル・ジョンソンから引用したというこの言葉の原典を、私は見つけることができなかった。
(ユーディット・シャランスキー/細井直子訳『失われたいくつかの物の目録』(河出書房新社、二〇二〇年)、17~18; 「緒言」)
- 一年前より。天気や大気。
一〇時まで読み、瞑想した。きょうは寝床からみあげた空に雲が一滴もみあたらなかった青の快晴で、気温もたかく温暖である。風は砂漠をしずかに吹いて砂の表面をふっとわずかにさそいあげるような、かわいてかるいながれとしてときおりやってきて、カタカタという音をどこかに生みながら、部屋のなかというよりはこの家じたいをとおりすぎていくようにかんじられる。しかし終盤ではもっと厚くなり、とおくちかくでうねっているのがききとられ、家に直接あたってはこないが窓外ちかくの草を鳴らしているのももちろんわかり、巨大な蛇がすばやく這いまわっているような調子であたりにうごきの気配を撒いていた。一〇時二五分くらいまで静坐。
部屋を出て父親にあいさつをしつつ階上へ。ジャージにきがえる。南窓のむこうでは近所の家屋根が快晴のひかりにおそわれて板状にうちのばされたきらめきやかがやきを乗せており、てまえの一軒は平らでひとつながりのすべらかな白さだが、(……)さんの家の屋根ではこまかな襞におうじて白さは粒と転じかたよりをもち、極小の起伏を無数にたたえた川の水面の、ただしその起伏のまま揺動を禁じられて凍りついた様相にひかりが乗ったかで、その白点の集合は素材とかかわりなくいろそのものによってざらざらとした質感を目にあたえるのだった。
- ニュース。
(……)新聞をみるに一面でバイデンがポーランドを訪問し演説したという報が載せられてあり(二三日からヨーロッパに行ってベルギーとポーランドを訪問)、プーチンにかんして、この男を権力の座につけていてはならないと激しく弾劾し、ロシアは民主主義をにぎりつぶそうとしている、自由を愛する国々は今後何十年にもわたって結束をかためなければならない、などと述べたとのこと。権力の座うんぬんという発言にかんしては、ロシアの体制変更をもとめたものではないかという反応がひろがって物議を醸したとかいい、ホワイトハウスは、大統領の発言はプーチン政権の変更をもとめたものではなく、ロシアのちからによるウクライナ侵略はゆるされないという趣旨のものだと釈明に追われたというのだが、ふつうにことばどおりに読めばプーチンは大統領をつとめていてはならないと言っているのだからその職はかれではなくだれかほかの者がつとめるべきだということになるし、バイデンだってさすがに暗殺しろとかは言わないにしても、プーチンがなんらかのかたちで排除されたらありがたいとおもっているに決まっているだろう。アメリカには諜報機関だってあるのだから、裏では人員が暗殺をねらってうごいているのかもしれない。プーチンだってそれを警戒して、さいきんはどこかに移動して身をひそめていたはず。
ロシア軍は東部攻略を中心とする方針に転換したところだが、攻撃は各地にもおこなわれており、西部リビウでは石油貯蔵施設がねらわれたり、またハリコフでは原子力研究施設がまた攻撃されたという。攻撃のために電源復旧や不発弾の処理ができていないらしい。各地でウクライナ市民を避難させると称して強制的に連行してもいるらしく、マリウポリでは病院関係者や患者がそうされたと。
- 往路。
三時すぎに出発。徒歩。きのう買った贈呈用の菓子の紙袋をふだんのバッグにあわせてもった。それなので両手ともふさがって、からだの左右に荷物を提げるかたち。空は文句なしのかんぜんな曇りに移行しており、ひかりの感触もなく幾層か塗られているようでよどみ、ばあいによっては雨がまた来てもおかしくないとおもわれる風情、もしそうなったら贈呈品が濡れてしまうからまずいが傘はもたなかった。みちを行くと坂道の入り口あたりに白と橙褐色の混ざった猫が一匹いて、こちらがすすんでいくあいだにちょっと移動してみちばたのガードレールのもとにたたずんだ。ちかくなるとたちどまって数瞬のあいだみつめてみたが、逃げるようすも、かといって寄ってくるようすもない。さきをすすもうと足をうごかしはじめたと同時に猫はんにゃあああ、とながい鳴き声を出して駆け出して、ガードレールの端からそのしたの花壇に下りることのできるあいまいなほそい坂にはいっていったが、こちらも坂道にはいりながらふりむいてみると、そこにもう一匹、黒い猫がいて二匹は相対しているのだった。つがいなのか、それとも求愛して関係をつくっているさいちゅうなのか、とおもった。
道中、みちばたでユキヤナギが花をつけて白さをひろげはじめているのをみかけた。この時季にみる花ではユキヤナギがいちばん好きかもしれない。梅や桜もときによってふつうにきれいだとはおもうし、とくに桜などそれはそれでおもしろみもあるが、ユキヤナギのほうが目にしたときにこころひかれるというか、ちょっとうれしくなるようだ。とりわけ旺盛に繁茂して野放図に八方へとひろがり伸びたモジャモジャのドレッドヘアーみたいになっているのが風にゆらいでいるのをみるのが好きである。ユキヤナギの花はひじょうに微小でぷちぷちとしたかんじのつきかたをしており、単体でみるとあまりにもシンプルなかたちをしているそのたんじゅんさがまずよいのだが、それが無数に群れてつらなりいくつも房をなして、びしゃーっとまきちらされた飛沫のように豊穣かつ無秩序な様相を呈するあのすがた、たんじゅんさのきわめてたんじゅんで愚直な集積が奇矯な複雑さに転じているあの過剰なありかたがすばらしい。
(……)のとちゅうで裏道にはいり、ひだりに折れてみちの北側に二軒目の家では庭にモクレンらしき樹が立っており、それがいまピンクともむらさきともいいがたいどちらも混ざったいろあいの花をひらいているときで目にあかるく、花弁はおおきな貝殻をくみあわせたようでもあり、またところによって桃紫がみえところによっては白い面となっているすがたは花というよりはぶぶんぶぶんで皮を剝がれたりつけたままだったりの果物のようでもある。ただ、みちをもっとさきまでいったところにあるハクモクレンの記憶と比して、花のかたちがすこしちがうようにもみえて、あれはモクレンだとおもっているのだがほんとうにそうなのかなという疑問も湧いた。なにかがすこしだけちがう気がするのだが。そのハクモクレンはといえば、この日とおるともうピークをまわって花がいくつも地に落ちており、すぎざまにあしもとに目をやれば白い花弁の端やあるいはおおかたが火に炙られたようにアーモンドいろに焦げているれいの様態がころがっていた。木のしたに高年の男性がひとりいて、たぶん花びらを掃除していたのだろうが、家のひとだろう。なかなかたいへんだとおもう。
この往路も(……)に寄ってトイレを借りた。みちを二〇分くらいあるくとだいたい小便がしたくなる。施設裏手のみちからみえる(……)の枝垂れ桜は、ついせんじつまでまだうっすらといろをただよわせるのみで花ひらいてはいなかったはずだが、この日もう開花してほそい水流のような薄紅のいろの落下となっていた。それはそれでわるくはない。ただ、この枝垂れのすこしひだり、線路のむこうでそのしたに一軒の小家を置いているべつの桜が林の縁に顔を出しており、その花のほうが薄紅のいろみに白さがおおく、やや甘いようで浮遊感がつよいので、じぶんとしてはそちらのほうが好みのようだ。
- 「読みかえし2」から。ヘルソン市からロシア軍が撤退してウクライナ軍が進駐し解放しはじめたのが一一月一一日あたりだった。
Harry Taylor and Samantha Lock, “Russia-Ukraine war at a glance: what we know on day 261 of the invasion”(2022/11/11, Fri.)(https://www.theguardian.com/world/2022/nov/11/russia-ukraine-war-at-a-glance-what-we-know-on-day-261-of-the-invasion(https://www.theguardian.com/world/2022/nov/11/russia-ukraine-war-at-a-glance-what-we-know-on-day-261-of-the-invasion))
1328
Ukrainian forces have entered the centre of the southern city of Kherson after Russia’s retreat to the west side of the Dnipro River was completed. They were met by jubilant crowds who greeted soldiers as they arrived in the city for the first time since Russia captured it on 2 March. The Ukrainians claimed 41 settlements as they advanced towards the city, the capital of the wider province.
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Ukraine’s defence minister said Russia still had a contingent of 40,000 troops in the Kherson region. “It’s not that easy to withdraw these troops from Kherson in one day or two days. As a minimum, [it will take] one week,” Oleksii Reznikov told Reuters. He added that intelligence showed Russia’s forces remained inside the city, around the city and on the west bank of the Dnipro. Vadym Skibitsky, Ukraine’s deputy military intelligence chief, estimated more than half the Russian soldiers that had been stationed on the right bank of the city were still there – a force that had previously been put at 20,000.
Kyiv has said it is wary of rushing in and claiming victory, warning it may be a trap by the Kremlin. Ukraine’s army chief, Valeriy Zaluzhnyi, said Kyiv could not yet confirm whether Russia was indeed pulling out of the city, but Kyiv’s forces have advanced 36.5km (22.7 miles) and retaken 41 villages and towns since 1 October in the region. That included 12 settlements on Wednesday alone.
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Forty-five Ukrainian soldiers have been freed in a prisoner exchange with Russia and the bodies of two killed Ukrainian soldiers have also been repatriated, the head of the Ukrainian presidential office has said.
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The head of Russia’s Wagner mercenary group, Yevgeny Prigozhin, has said his organisation has started training civilians in Russian regions bordering Ukraine to form a militia and build fortifications.
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The US’s top general and chair of the joint chiefs of staff estimates that Russia’s military had seen more than 100,000 of its soldiers killed and wounded in Ukraine, adding that Kyiv’s armed forces have “probably” suffered a similar level of casualties. Mark Milley’s remarks offer the highest US estimate of casualties to date.
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The US will send $400m (£338m) more in military aid to Ukraine, officials announced on Thursday. According to the Pentagon, the aid package will contain large amounts of ammunition and, for the first time, four highly mobile Avenger air defence systems. “This increased air defence will be critical for Ukraine as Russia continues to use cruise missiles and Iranian-made drones to attack critical civilian infrastructure,” the national security adviser, Jake Sullivan, said. The US will also buy 100,000 rounds of howitzer artillery from South Korean manufacturers to provide to Ukraine, an official added.
Guardian staff with agencies, “Russia-Ukraine war at a glance: what we know on day 263 of the invasion”(2022/11/13, Sun.)(https://www.theguardian.com/world/2022/nov/13/russia-ukraine-war-at-a-glance-what-we-know-on-day-263-of-the-invasion(https://www.theguardian.com/world/2022/nov/13/russia-ukraine-war-at-a-glance-what-we-know-on-day-263-of-the-invasion))
1331
Ukraine president Volodymyr Zelenskiy says Kyiv’s forces have established control in more than 60 settlements in the Kherson region and “stabilisation measures” are being carried out in Kherson city after it was retaken by Ukrainian forces. Zelenskiy said that Russian forces had destroyed all of Kherson’s critical infrastructure before they fled, including communications and water supplies along with heat and electricity supplies.
Ukrainians hailed Russia’s retreat from Kherson as Kyiv said it was working to de-mine the strategic southern city after the eight-month occupation and restore power across the region. In the formerly occupied village of Pravdyne, outside Kherson, returning locals embraced their neighbours, some unable to hold back tears, Agence France-Presse reported. “Victory, finally!” one said.
The head of Kherson’s regional state administration said everything was being done to “return normal life” to the area. Yaroslav Yanushevych said from Kherson city in a video posted to social media that while de-mining was carried out, a curfew had been put in place and movement in and out of the city had been limited.
Pro-Moscow forces are putting up a much stiffer fight elsewhere and the battles with Ukrainian forces in the eastern Donetsk region are hellish, Zelenskiy said. “There it is just hell – there are extremely fierce battles there every day. But our units are defending bravely – they are withstanding the terrible pressure of the invaders, preserving our defence lines,” he said.
Ukraine would decide on the timing and contents of any negotiation framework with Russia, according to a readout of a meeting between the US secretary of state, Antony Blinken, and the Ukrainian foreign minister, Dmytro Kuleba, at the Asean summit in Cambodia in Phnom Penh.
The Russian president, Vladimir Putin, has spoken to his Iranian counterpart, Ebrahim Raisi, by phone and both leaders placed emphasis on deepening political, trade and economic cooperation, the Kremlin said in a statement on Saturday. The discussion of “a number of topical issues on the bilateral agenda” also including the transport and logistics sector, the Kremlin said. It did not say when the phone call took place and made no mention of Iranian arms supplies to Moscow.
レジー×稲田豊史「ファストな文化は誰が作ったのか?稲田豊史と読む『ファスト教養』」(2022/11/11)(https://shinsho-plus.shueisha.co.jp/interview/regista_inada/21947(https://shinsho-plus.shueisha.co.jp/interview/regista_inada/21947))
1330
稲田 そういえば先日、公開している僕のメールアドレス宛てに、「早送りされて当然の作品を作ってる監督をなぜかばうのか」といった内容のお怒りメールが届きまして。1行目が「おい、稲田」だったんですけど。
レジー 『おい、小池!』みたいな(笑)。
稲田 指名手配犯扱いです(笑)。要は、その方にとって「無駄なシーン」なんて飛ばされて当然だという主張なんですが、そのシーンに込められた意味をその方が汲めなかっただけ、という可能性は考えもしない。ただただ「わからないものを作った奴が悪い」と苛立つ。もちろん、昔から「わからなかった、なんだこれ」という感想を持つ人はたくさんいましたが、それを世間に対して発信する方法は非常に少なかった。今はインターネット、SNSがあるので「わからなかった=つまらない」という声を広い範囲に向けて誰でも可視化することができる。その声が相応数集まれば“民意”となり、作り手側もわかりやすく作らなきゃという気分になっていく。
レジー たぶん「わからなかったと言うのが恥ずかしい時代」から、「自分がわからないものを発信するなんておかしいと感じる時代」になっちゃったんでしょうね。
稲田 社会に出る前の若者がそういうことを言うのはいいと思うんです。僕もそうでしたが(笑)、若い時分は全能感の塊だから、自分が興味のないこと、自分にとって価値を認められないものを「無価値だ」と断定しがち。広い世界や多様な価値観に触れていないので致し方ありません。でも今って、いい大人もそんな態度を取るじゃないですか。30歳、40歳を過ぎても自分が理解できないことがあるのを恥ずかしいとも思わず、むしろ「わかるように表現しないお前らが悪い」と食ってかかる。
そういう人たちが好むしぐさのひとつに、『ファスト教養』でも言及されていた「ハック」があると思うんですよ。正当な手続きを踏み、相応の時間をかけて学び理解するというプロセスを億劫がる。だから既存のシステムには乗らずハッキングする、つまり他人を出し抜くという考え方に至る。にしても「出し抜く」って相当なパワーワードですよね。昔ならアニメの悪役がやってたことですよ。
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稲田 現実問題として「ハック」しないとシンプルに損をするということは、仕事や生活で往々にしてあります。僕は個人事業主ですが、税金って本当に「知らない」と損をする。ただ言われたとおりに申告すると莫大な税金を払うことになるけど、ちょっと工夫するだけで節税できたりする。そういうことを公的機関は教えてくれない。
同じように、ビジネスの領域で効率や費用対効果や最短距離を求めるのはまったくもって正しいと思うんですよ。最小のアクションで最大の利益を生み出すのがビジネスですから。それは否定されるべきことじゃない。ただ、それがビジネスの領域を超えて文化にまで侵食してきていることに違和感があるんですよね。そのはしりが、2010年代からよく言われるようになった「ライフハック」礼賛の風潮だったような気がします。
レジー 本来「鑑賞」するものであるはずの文化やカルチャーについても、ビジネス的に向き合うみたいな態度が広がってきてる感じはありますよね。それこそコスパやタイパを意識するというか。
稲田 ある種の人にとって「倍速でも物語が理解できるのにわざわざ等倍速で観る」のは、「エクセルが計算した結果をわざわざ電卓で検算する」みたいな、意味のない前時代的な振る舞いと同じように見えてるんじゃないでしょうか。「時短できるのに、なんでわざわざ?」って。
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稲田 あと話しておきたいのは、よく言われる「ファストなものも“入り口”としてはいいんじゃないか」論ですね。たとえば歴史学習の入り口としてなら、中田敦彦さんのわかりやすい動画は悪くないんじゃないか、とか。
レジー 僕の本をちゃんと読んでくださった方からもそういう意見をいただくことはありますね。ただ僕の印象だと、入り口にはならないことの方が多いんじゃないかと思います。ファスト的なコンテンツって、「これを押さえれば、もうあなたはこのジャンルについていっぱしの語りができます」みたいな感じで、入り口のすぐ先に免許皆伝があるんですよね。
稲田 この10冊さえ読めばOK、的な。
レジー 本当に入り口になるならもちろんいいんですけど、どうも僕はその意見には同意しきれない。
稲田 良い入門コンテンツって、触れるとすぐ「次」にいきたくなるんですよね。本なら、「次に読むべき本はこれだ」というのが、読んでいるうちから自然とリストアップされる。映画も、すごい映画を観てしまうと必ずと言っていいほど同じ監督の別の作品も観たくなる。あるいは俳優の別の出演作を観たくなる。でもファストコンテンツは逆で、「そこから先はもう観なくていいよ」という語り口になってるように思います。「この10冊、この10本でOK。それ以上必要ない」というような。
- Royce Kurmelovs, “Russia-Ukraine war at a glance: what we know on day 398 of the invasion”(2023/3/28, Tue.)(https://www.theguardian.com/world/2023/mar/28/russia-ukraine-war-at-a-glance-what-we-know-on-day-398-of-the-invasion(https://www.theguardian.com/world/2023/mar/28/russia-ukraine-war-at-a-glance-what-we-know-on-day-398-of-the-invasion))
The 18 Leopard 2 battle tanks promised by Germany to support Ukraine have been handed over at the Ukrainian border, according to a report. About 40 Marder infantry fighting vehicles have also reached Ukraine, Der Spiegel has reported, citing unnamed sources.
The chair of Ukraine’s parliament, Ruslan Stefanchuk, has told British lawmakers that Kyiv is ready to send its pilots to be trained in the use of western fighter jets. Stefanchuk, speaking during a visit to the UK, said Kyiv could bring “joint victory for Ukraine and the world” once it “gets the wings”, in language echoing that of Volodymyr Zelenskiy’s speech to the British parliament in February.
A leaked phone conversation allegedly between prominent Russian music producer Iosif Prigozhin and billionaire Farkhad Akhmedov, in which the two men give a far-ranging criticism of the war in Ukraine and Russia’s leadership, has been published by Ukrainian media. If genuine, the audio would provide a rare insight into the mood within the Russian elites.
Russian and Belarusian athletes should be banned from the 2024 Olympics in Paris unless Moscow pulls its forces out of Ukraine, Poland has said, after the International Olympic Committee (IOC) said it planned to let them compete as neutrals.
Poland has detained a foreign citizen on charges of spying for Russia, prosecutors have said. The arrest comes after Poland dismantled a Russian espionage network that had been preparing acts of sabotage and monitoring rail routes to Ukraine. If found guilty, the suspect could face up to 10 years in prison.
Hungary’s parliament has approved a bill to allow Finland to join Nato, bringing it one step closer to becoming a full member of the alliance. Hungarian lawmakers voted 182 for and six against with no abstentions. Turkey is the only one of Nato’s 30 members not to have ratified Finland’s accession.
- いますでに午後一一時一四分。さきほど一九日、二〇日、二一日の記事を投稿。二〇日の月曜日分だけ勤務時のことをわずかに記した。ほかは書いてあったことだけで。BGMにAllison Wheeler『Winterspring』というのをかけた。チェコのシンガーソングライターだとか。Norma Winstoneなんかから影響を受けた由。ほんとうはdiskunionのジャズ新着ページをのぞくとJim Hallの『Uniquities』といって、二〇一二年に来日したときにScott ColleyとJoey Baronとのトリオでやった音源が出たというのでそれを聞きたかったのだが、Amazon Musicには見当たらなかった。きょうは医者に行ってきた。出たのは四時半ごろ。かっこうはブルゾンに青灰色のズボンにモッズコートと毎度変わり映えしない。覚醒は八時四五分でそのころにはまだ雨が降っているようだったが、その後白天ではあるもののきのうとくらべてカーテンの向こうがあかるい昼間がつづき、二時くらいから薄陽が漏れ出して、出かけるころにはついに雲が割れて道に日なたがかかっていた。アパートを出ると向かいの保育園で迎えに来た母親が幼子を胸に抱きかかえながらもうひとりをともなっている。路地の縁には保育園の囲いをまえに自転車がいくつか停まっている。右手に折れて抜けると背後から、そっち行っちゃだめ、車が来るよ、あぶないよ、という保護者の声が聞こえ、目の前の道路はなかばから奥に日なたが敷かれているのでぬくもりをもとめてそちらに渡る。西陽がちょうどあらわになっていて、その照射につつまれて視界を領されながら目を細めざるをえない。横断歩道は赤だったが車がなかったので渡り、たまには裏路地から行くかと折れかけたところがまっすぐ伸びるその奥に救急車が停まって赤ランプを回転させているのがみえたので、通りづらいかもしれないとおもいなおして口をすぎ、豆腐屋のまえを行って(……)通りに折れた。ちなみに救急車のサイレンはアパートを出て直後に聞いていたし、きのうの往路も帰路も聞いた。そとに出てあるいていればほとんどまいかいその音に出くわすような町だ。都市部はどこもそうかもしれないが。ちいさな公民館のたぐいが付属している公園には桜が盛り、とはいえピークは過ぎて散りだしている気配だが、敷地の縁に立った一本の、冬のなごりめいて雪白をふくらませたこずえの道側はあかるくとも、公園側は薄陰を帯びてほのかに青い空気に沈み、場合によっては明暗ともに紫をほのめかせかねない風情、いずれ薄紅をたしかにはらんではいるけれど、しかし地元ではたびたび甘やかな浮遊感をみてとっていたさくら花も、ここさいきんこの土地で目にすると妙に冷淡なような、超然としたかの印象が主調で、まるで咲くも散るもおまえたちには関係のないことこちらの勝手と、桜にとってはじっさいそうにちがいないが、そのように拒絶されている、とまではいわずとも、無関心の顔をひろげてあちらはひとを見ないかのようで、底にはらまれている薄紅の甘さよりも表面の白さが集合的に、いかにもしらじらと浮かんでうつる。それはこの町の景観や雰囲気によるものか、こちらの気分によるものか、さてはきのうきょうと肌寒さがすこしもどっているからその大気の具合によるものか。このときも風はあり、マフラーはさすがにもういらないが、首もとにふれればモッズコートのそこのボタンを留めようとおもうくらいの感触ではある。公園にはまた自転車の小学生たちがつどって屋根のしたでなにやらにぎやかにしていた。道をすすむとランプを灯したパトカーが来て、すれちがえば消防車も道端に停まっており、その脇でベビーカーを押しつつもうひとり連れた茶髪の若い母親が、お仕事中の車だから、と子どもに言っていた。こちらがわの道脇には文房具店があり、そのまえで老年の女性ふたりが立ち話をしている。そのすぐ横をとおりすぎて出れば交差路、陽にさらされつつちょっと待って道路を渡り、また裏にはいっていけば最寄り駅前への道がひだりにひらいて、駅前マンションの脇にも桜が一本、こずえを重らせていた。路地を西へすすむ。その間たいした印象はない。足取りはゆるいほうで、運びも重くない。しばらく行けば幹線である(……)通りの交差点にいたる。ここでも止められてまた日なたにふれつつちょっと待つ。目のまえを車が続々と駆け去っていき、左右をみあげれば空は雲混じりながら薄水色もあらわれてだんだん爽やぎだしている。向かいの奥から片手で電話を耳に当てつつ、もう片手はぶんぶん左右に振ってセーターかなにかの長く伸びた袖を振り回しながらあるく若者がやってきた。青に変わると渡ってさらに進行。歩道上で、荷物運搬用の真っ青な大ボックスをガラガラ押してあるく佐川急便の配達員とすれちがう。帽子つきのれいの制服の袖は肘をわずかに越える位置までの長さで、おそらくまくっていたのだろう。小便がしたくなってきていたが、心身はおだやかで、きのうとちがって突発的に高潮する気配もなさそうなので余裕がある。それで駅ビル沿いの通りにはいって急がず行けば、かなたに見える空では太陽があらわではないものの、雲がことさらひかりをとどめている箇所があり、それは通りに沿ってほぼまっすぐさき、駅前の高架歩廊やビルを越えたそのうえで、すこしまえまでは時間はこの五時よりいくぶんはやかったとはいえ、太陽が左側のビル群にかくれてみえないままで、右側にながくひろくつづく(……)の側壁上に薄オレンジをびしゃっと撒きながしている風景がもっぱらだったのに、とおもった。南側からはなれて出てくるようになったらしい。
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- 日記読み: 2022/3/28, Mon.
- 「読みかえし2」: 1325 - 1331
- 「ことば」: 1 - 3