2014/3/12, Wed.

 最高気温十六度にしては寒い朝だった。フライパンに入ったチャーハンを熱した。時間がたって少しぐちゃっとしたそれを木べらでばらした。底にくっついた薄膜がかすかに煙を上げた。あたたまりきらなかったチャーハンと、電子レンジのなかであたたまりすぎた餃子を食べた。こんな朝には汁物がほしかったけれど、つくる気にならなかった。
 南側の窓のカーテンが細くあいていた。父があけたものらしかった。母はそれをいやがる。隙間から川向こうの森と、瓦屋根が見えた。整然と並んだ均等なかたちの瓦はみんな同じ場所で光を反射して、白く輝く線ができて列になっていた。カーテンを閉めた。
 Dave Holland『Pass It On』を流して柴崎友香『ビリジアン』を読んだ。読書中、本の白い紙の上に小さな点が見えた。顕微鏡で見た細胞みたいだった。目のなかにある点だった。焦点を合わせようとするとすぐに消えてしまった。読んでいるとまた現れた。高校時代の帰り道にNとそれについて話したことを思い出した。そういう変なところに気づくやつだった。
 昼食はチャーハンの残りと煮物と目玉焼きだった。The Style Council『Cafe Bleu』、The Three Deuces『Keep On It』を流した。十日の日記を書いてからアイロンをかけた。暑かったり寒かったり変な天気、と母が言った。朝はすごく寒くて陽が出るとすごく暑いからまいるよ。Radiohead『OK Computer』を流した。ダンベルを持って、筋肉をぎゅっとしぼるようにゆっくりと腕を上下させた。
 風呂に入っているとタイマーみたいな音が聞こえた。ずっとピーピー鳴っているからなんとなく不安になった。立ち上がって窓を開けると大きくなった。どこから聞こえるのかはわからなかった。家を出たときに勝手口の外の箱に入った給油ポンプだとわかった。スイッチを切った。
 暑くも寒くもなくて涼しくもなかった。桃色の梅の花とそれよりも赤い椿が並んで咲いていた。振り向くと西の空が薄くオレンジに染まっていた。薄い雲が光っていた。長く伸びた飛行機雲がそのなかに突っこんで消えていた。五時半だった。
 暑くも寒くもなくて涼しかった。Mさんのブログを読みながら歩いた。空を見上げると、雲のなかを月が泳いでいた。光が雲に映って円になった。その縁が赤くなっているのが不思議で首を上に向けたまま歩いた。人がいないからできた。
 夕食はカレーだった。寝る前に、大西巨人が死んだことを知った。