2014/5/26, Mon.

 夜更かししたから眠かった。Hさんからメールが来て覚めたけれど、返す前に寝ていた。十二時をまわってやっと起きて、メールを返した。さっき目をあけたときに空が青かったことはおぼえていて、だけどもう灰色だった。起きあがって外を見ると、その途端に風が吹いて、タンポポの綿毛が左から右へ流れていって、泡みたいだった。リビングにあがって、雨が降りそうだったから洗濯物を入れて、メンチとかきあげをおかずに米を食べた。部屋にもどって昨日の日記を書いた。途中までしか下書きしていなかったから、そのあとは時間がかかった。二時半前に終わった。書き終わってから音楽を流していなかったことに気づいて、Bob Dylanの"It's All Over Now, Baby Blue"を聞いた。
 うす暗いリビングでタオルをたたんで皿を洗って、風呂も洗った。突然カップラーメンを食べたくなったけれど戸棚を見てもなかった。台所の下を見たらひとつだけあった。収納スペースにはいろんなものが入っていて、気持ちの悪いにおいがした。
 『失われた時を求めて』六巻を読んだ。あいかわらずゲルマント夫人の話が続いた。もうたぶん百五十ページくらいゲルマント夫人のサロンにいた。プルーストの記述はどんどん脱線していく。だれかがなにかを言えばそこから語り手が思ったことや連想したことをつけ加えてふくらんでいって、そのあいだにいまがどういう場面だったか忘れそうになる。少し歩くごとにいちいち横道にそれて迂回しながら進んでいく。プルーストを読んでから布団をかぶるとだんだん眠くなって、目を閉じてしまった。変に抵抗したからきれぎれの睡眠になって、すっきりしないまま一時間くらいベッドにいた。全然起きられなかったのに、五時半くらいになると突然目がはっきりひらいた。やっと起きて上に行って、アイロンをかけた。母はたけのこを煮ていた。部屋にもどって三宅誰男『亜人』を読んで、古井由吉『鐘の渡り』も読んだ。これも変な小説だけれど、どう変なのかわからなかった。だけどたぶんこういうことは古井由吉しかやっていない気がして、こういうことをやっても小説になるのがおもしろかった。読みながらカブトムシのバンドを流していた。
 七時すぎまで読んで、風呂に入った。高校のころの小説は、とりあえず五十枚になればいいという気になった。考えてみるとそんなに記憶が残っていなくて、残っているのはだいたいイベント事のときのことで、日常の学校生活のことをあまり思いだせなかった。だからあまり長く書けない気がした。書いているうちに思いだしてほしかった。
 夕食は皿が多かった。母がもらってきた小さい天ぷらと、ピーマンの肉詰めと、菜っ葉と、みそ汁と、米だった。米には納豆をかけた。テレビではフリーメーソンの日本本部が映っていた。フリーメーソンってなに、と聞くから秘密結社だと言った。秘密結社ってなにをするのと聞くけれど、それがわかったら秘密結社ではなかった。だけどフリーメーソンは秘密結社ではなかった。もともとはイギリスの石工の組合かなにかで、フランス革命のあとあたりから陰謀論が広まって裏組織のイメージがついたとどこかで聞いた気がした。いまは炊き出しとかの社会奉仕活動をしているとテレビが言った。
 久しぶりにベースを弾く気になった。電池をとりかえて、カブトムシのバンドの"Oh! Darling"をコピーした。この曲をうたえたら気持ちがいいけれど、音が高かった。夜の散歩に行きたくなった。靴を持って勝手口のドアをあけると、木の葉が鳴る音が聞こえた。風の音だけではなかった。手をのばすと雨が触れたから、あきらめた。部屋にもどってBBCを読んだ。AKBの事件がイギリスの新聞でも報道されていて少し驚いた。タイの記事をふたつ読んだ。タイではいま、十時から五時まで夜間外出が禁止されていた。五人以上のデモも禁止されて、破ったら一年以下の懲役だった。だけど軍に反対するデモは起こっていた。"WE WANT DEMOCRACY"と書いた紙を持った男の人の写真があった。眉間をかたくして、大きく口をあけて叫んでいた。そのむこうに迷彩服の兵士が何人かいた。兵士たちとデモ隊の衝突の写真もあった。もう一枚は若い兵士の顔を写した写真で、眉がまっすぐで凛々しい兵士が目をうっすら赤くしていた。今日、軍の将軍が暫定政権のリーダーとして国王の承認をもらったと言った。装飾された真っ白な軍服を着ていた。デモが拡大するなら軍事力を行使するしかないと言っていた。
 歯をみがいてからもうひとつの記事のはじめだけ読んで、SBNRという言葉を知った。Spiritual But Not Religiousで英語のウィキペディアにも記事があって、それも少し読んだ。スピリチュアルと言うと焼き肉のたれの名前の人が出てくるけれど、日本人でもこういう人はけっこういるかもしれなかった。十二時半まで日記を下書きして、それから『亜人』を読んで電気を消した。雨の音が聞こえた。木の葉が雨を受ける音や、背の低い下草に水が当たる音や、増水した川の低い響きが聞こえて、そのあいだを埋めるようにして空気自体が鳴っていた。