2014/5/31, Sat.

 アラーム前にすっと目がさめてアラームも鳴ったけれど寝た。きゃあ、ムカデ、という母の声でまた目ざめた。廊下にいるらしかった。ベッドから寝ぼけた頭で、ころして、ころして、とつぶやいた。何かでたたいている音が聞こえたあと、持っていた掃除機で吸いこんだみたいだった。起きると九時前だった。四角く切りとられた空は雲がなかった。あがって、なにもなかったから、ベーコンを卵と焼いて米に乗せた。母は講習があって出ていった。洗濯物を入れていってね、と何度も言った。日記を読みかえして、部屋にもどるとブログから二月二十三日の分まで消した。それから昨日の日記を書いて、そんなに長くないのに十一時を過ぎた。Tony Malaby『Adobe』を聞いていた。Hさんの小説をすこし読むと十二時になった。上にあがってベランダに出ると、陽ざしは夏で洗濯物はもう乾いていた。入れてタオルをたたんでから、風呂を洗ってシャワーを浴びた。空色のシャツと、裾をまくれる灰色のチェックのボトムスを着た。出かけるまでにあまった十分くらいで古井由吉『蜩の声』をほんのすこし読んだ。
 家を出たころは陽がかげっていて、つらくなかった。駅のホームでイヤフォンをつけて、Frank Zappa『Zappa In New York』を聞きはじめた。電車に乗ってからはいつもどおり目をつぶって音楽を聞いていた。(……)に近づくにつれて明るくなってきた。降りて、精算機で二千円チャージして外に出た。壁画にはもうNがいた。赤と青と組みあわせた夏っぽくて目立つ柄のシャツを着ていた。その服を着ているとバナナが食べたくなると言った。サンタモニカとミリタリーを合わせたモニタリーというブランドだと言って、よくわからないけれど高そうだった。前回会ったのはいつだっけ、と言うと、すぐに十月二十九日だと言って、本屋に変なおばさんがいた日だと言うから思いだした。図書館に行って、さっさとCDを三枚決めた。Enrico PieranunziPaul MotianがいっしょでChris Potterまでゲスト参加している『Doorways』と、そのすぐ近くにあったEldar『Virtue』を手にとって、それからロックのほうを見たけれどあまりぴんとこなかったからジャズに戻ってPat MethenyOrnette Colemanが共演した『Song X』の二十周年記念盤にした。Ornette Colemanもアトランティックの有名なやつを買ったはいいけれど聞いていなかった。
 喫茶店に行った。禁煙席の奥が一席あいていた。ココアを飲みながらだらだらとおしゃべりした。Nは彼女がスイスにいるから九月くらいからスイスに行くかもしれない、と言った。部屋の中央に円形の広いテーブルがあって、まんなかから観葉植物が背を伸ばして、天井のまるいくぼみに影が映って黒い屋根みたいで、そのなかにある小さな照明の穴は星みたいだった。円形テーブルの人たちはだいたいひとりだった。まわりを見まわすと、なにかを勉強している人がけっこういた。ずっとPSPみたいなものをいじっている女の人がいた。本をひらいて、頬杖をついて悩ましげにノートになにかを書いている人がいた。大きな声で話す高校生くらいのふたり連れがいた。隣の席は最初中年の男女がいて、次に黒づくめの女の人がひとりで座ってすぐに消えて、最後に若いカップルが来た。
 Nが百円均一に行きたいから、(……)のダイソーに行った。Nは最近小さい観葉植物を育てていて、喫茶店でも写真を見た。だからダイソーに来たけれど、ほしいものはなかったからすぐに出た。外の空気を吸いたいと言うから、図書館のほうにある公園に行った。まわりのビルで働いている人たちが昼食を食べるようなところで、台座みたいな石に座った。コンビニで買ったアイスを食べて、まただらだらとした。ひとりで石に座って携帯をいじっている人や、自転車に乗りながら電話に向かって罵っているおじさんや、女子高生ふたりがいた。うしろに倒れて石の上に寝転がった。目の前の信用金庫の赤っぽい茶色のビルがすごく高く見えた。足のほうにあるから地面みたいで、落ちていきそうだった。空はさめきった青で、右手のビルの向こうからあふれる純白のなかにだけ雲があった。あたりが灰色になるにつれて、とけそうにうすいその雲が霧みたいに広がった。いま歩廊にあがったらきっと夕陽が見えた。六時に近づいたから、本屋に行くことにした。
 柄谷行人『定本 日本近代文学の起源』とフアン・ルルフォ『ペドロ・パラモ』を合わせても二千円しないからまだいけた。海外文学の棚を見てまわった。トルストイの「コサック」ともうひとつ中編が入った本がすごく欲しくなったけれど、たしか地元の図書館にあった。図書館にないのにおもしろそうな本が多すぎた。話題の『岸辺なき流れ』があった。ムージルの伝記は上下巻合わせて二万円くらいするからまだ買えなかった。たしかジョン・マクガハンだったけれど、国書刊行会から出ているやつがおもしろそうだった。もうひとつ国書刊行会で、『巨人』という巨大な本もあって読んでみたかった。棚のいちばん上のいちばん左にあって、その隣にはギュンター・グラスの水彩画と詩を合わせたみたいな本があってそれも大きかった。ジャン・ジュネの名前を見て、ほしいけれどハードカバーは買えないから文庫のほうに戻った。河出文庫に『葬儀』と『ブレストの乱暴者』があって、どっちがいいのかわからないからどっちも取った。四冊買った。買ったあとで気づいたけれど、『花のノートルダム』がなかった。あったらそっちを買っていた。
 飯屋を知らないからいつも行く(……)の上に行った。ラーメンを食べたかったから中華の店に入った。Nはエビチリを食べた。サラダも頼んで、すべて食べたあとに餃子も食べた。中華の店なのにボサノヴァがかかっていた。だらだらしゃべってから出て、また本屋を見た。クロード・シモン『歴史』が読みたかった。帰ったのは八時になる前だったかどうかおぼえていない。電車のなかではGretchen Parlato『Live In NYC』をipodから流して、BBCの記事をふたつ読んだ。地元の駅で電車を待つあいだも、座りこんでGuardianの記事をひとつ読んだ。二十分くらいしゃがんでいたら足がしびれた。
 帰ったら母が昼を食べた店で買ったピザがあったから、あたためて食べた。『族長の秋』の彗星の場面をTwitterに連続で打ちこんでから風呂に入った。十一時までなにをやっていたのかおぼえていないけれど、十一時からは"Kew Gardens"を訳しはじめた。一時くらいまでやってそこそこ進んだけれど、この小説でたぶんいちばん意味がとりづらいところに差しかかって止まった。抽象的な記述で、いくつかあるtheirとthemが何を指しているのかわかりにくかった。訳を考えながら寝た。