2014/6/11, Wed.

 十時半に起きた。起きるときはいつもからだが重くて、肩や腰がかたまっている感じがする。冷蔵庫にあったチャーハンをあたためて食べて、すこし足りないから食パンも食べた。柴崎友香『ショートカット』を読んだ。
 昨日の日記を書いているあいだはBrad MehldauVillage VanguardでやったライブのVol.5を流していた。十二時半過ぎまでかかって書いた。夜帰ってきてからはだいたい部屋にいるから動きがなくて、こまかく書けないしよくおぼえていない。
 日記を書いたあとは三時半までひたすらだらだらした。これでもかというくらいにだらけきった。そのあとに上にあがって食パンとゆで卵を食べた。米をといだら四時くらいになって風呂に入った。ひげは面倒だからそらなかった。洗面所の鏡には貧相なからだが映った。肘から肩までのあいだの筋肉は前よりは太くなったけれどどうということもない。腹筋はたるんでいないけれどしまってもいなくて、脂肪がないだけだった。最近体重をはかったときは五十三キロぴったりだった。部屋にもどって、くるり"ロックンロール"をくりかえし流してうたった。
 六月五日以来、雨の降らない日がなかった。近所の家のガレージというほど広くない駐車スペースの前を通ったとき、視界の端を黒いものがかすった。目を向けると、黒猫だった。ちょこんと座って雨やどりしていた。目以外はすべて同じ黒で、目が見えなければ黒いかたまりだった。
 雨はそこそこ強くて、風が吹くと屋根の下にも吹きこんできて数歩下がった。もう何十年もそこにある赤銅色のレールが濡れて沈んでいた。線路のまわりは拳と同じくらいの石が無数に集まって、その隙間から草がなんでもないように生えていた。レールは伸びていって、すぐ先でトンネルに入る。そのあたりはそう遠くないのに、もやがかかったみたいに空気に白が混じっていた。トンネルから電車が出てくるのを見て、歩きはじめてホームの先まで行った。乗ると人はすくなかった。電車のなかから見た空は白く均一で、もう五時半だからか妙に暗くて寒々しかった。
 四時間くらい働いた。つかれた。
 停まった電車のなかで電話をすると、ほかに誰もしゃべっていないからその声がすごく目立つ。たぶんみんな聞くつもりもなく聞いていた。駅までむかえに来てくれとか言っていた。姿は見えなかったけれど男子高校生みたいな声だった。行きも帰りも音楽を聞かなかった。スマートフォンでUくんのブログを読んだ。降りると、もうあまり降っていなかったから傘をささなかった。自販機でコーラを買った。家の前の林を下りると木から水がひっきりなしに落ちたけれど、やっぱり傘はささなかった。足もとがほとんど闇で、すこし危なかった。暗いのはたぶん夏が近くなって木の葉や草がたくさん生い茂っているからだった。
 帰宅すると父も帰ったところだった。父が食べているあいだに入浴した。空腹だったからさっとすませた。出て夕食にした。サバの煮つけの骨を一本ずつちまちま取った。育ちが悪いから魚の骨の取りかたがわからない、と言うと、母も汚いと言われる、と言った。誰にかと聞くと父だった。父は骨ごと食べるから食べたあとの皿はきれいだけれど、たぶん骨をうまく取る技術があるわけではない。
 十時半になって部屋にもどった。本を読むべきか迷ったけれど、蓮實重彦『魂の唯物論的な擁護のために』を書きぬいた。Brad Mehldauをヘッドフォンで聞いていた。最近は一日ひとつのアルバムをくりかえし聞くということをやっていて、いろいろ流すよりいいかもしれない。三好行雄との対談と後藤明生との対談を読みかえした。ロシア文学が読みたくなった。読みたい本がこの世には多すぎた。本を読んで書くだけで生きていきたかった。十二時から日記を下書きした。あくびが出たからすぐに眠れそうだった。