2017/7/2, Sun.

 曇り日でありながら暑気は盛り、何をせずとも部屋にあるだけで汗が身を包んで粘る有様、七月に入っていよいよ夏も奮ってきたこの日、祖父の命日である。しどけなく転がって西行の和歌を読んだり、麻婆豆腐を拵えたりして日中の熱気をやり過ごしての暮れ方、都議選の投票に出た。七時を回っていたが、空はまだ青さが深みに入る手前で、見上げれば、綺麗に象られて浮かんだ月は上弦、樹々の間に白く重なった雲には、茜色の残骸が幽かに含まれているようだった。行く道の空気に、脇の家の花から洩れ出るものか、甘いような匂いが混ざって吸われる。
 樹々に接した坂を上って行くと、予想にないところで前がひらけたのに困惑し、そうか、こちらの道は近頃来ていなかったが、ここの林は伐られてしまったのかと気が付いた。水もほとんど涸れたらしい沢の跡を底に露わに、以前には見えるべくもなかった表の道路まで視線が通って、中途で断ち切られて残った薄色の樹の、断面から新たな枝葉が生まれ伸びているその先に重なって、青く浸った体の端をぼろぼろと零した夕雲が、残光の、最後の裾を受けていた。まもなく黄昏れても大層暑く、草間から近く叫ぶ虫の音の、耳にいかにも押し付けがましいなかに風も吹かず、汗がひどくべたついて、通りには風呂の匂いが漂ってくすぐる宵だった。
 投票を済ませると、ぽっかりと綺麗に、ちょうど半分から割られたような月を青の深まった空に戴いて、また汗をかきながら家に戻った。少々休んでから風呂に行くと、先ほど歩いているあいだはなかったはずが、外で随分と風が立って林を通っている。なかに赤ん坊の泣く声が、遠くから仄かに、伝わってきた。葉擦れが時折よほど大きく膨らむのに、枝葉を左右に揺り乱している樹々の様子を眼裏に浮かべながら湯に浸かった。