2021/10/26, Tue.

 樹木が立ちのぼった。おお、純粋空間へのぼる。
 おお オルフォイスがうたう。おお 耳のなかに立つ高い樹木よ。
 そしてすべてが口をつぐんだ。だがその沈黙のなかにさえ
 新しい始まりと、合図と、変化が起こっていた。

 静寂から生まれた獣たちが、ねぐらや巣から、
 解き放たれて明るい森のなかから出てきた。
 そこでわかったのだ、獣たちがひっそりしているのは
 ひとの目をくらますためでも、不安を感じているためでもなく、(end115)

 聴き入っているためだ。咆えるのも、叫ぶのも、妻よぶ声も
 彼らの胸のなかでは小さなことに思われた。そして
 その声を納める小屋のようなものもろくになく、

 暗い欲望から生まれかけた隠れ場所も、
 入口の支柱が危うくゆらめいていたのに対し
 あなたは獣たちの耳のなかに神殿を建てたのだ。

 (神品芳夫訳『リルケ詩集』(土曜美術社出版販売/新・世界現代史文庫10、二〇〇九年)、115~116; 『オルフォイスによせるソネットDie Sonette an Orpheus より; ヴェーラ・アウカマ・クノープのための墓碑として書かれる; 第一部、一)



  • 一一時半ごろに覚醒し、四二分になって離床。からだのこごりがやや強かった。水場に行って洗顔やうがい、用足しを済ませてから瞑想。正午まえからはじめて一二時三五分まで。わりとふつうに三〇分いじょうすわれるようになってきている。永平寺の修行僧をめざしてがんばりたい。きょうの天気は良く、あたたかなひかりの色が空間に満ちており、寝間着のまま窓をあけてすわっていても肌寒さはなかった(くしゃみはたびたび出たが)。食事を取ってからだもあたたまってからもどってくると、すこし暑かったくらいだ。茶を飲んだのでいまはジャージの上着も脱いでいる。
  • 食事はピラフや煮込みうどん。新聞は政治面に、衆院選沖縄四区の解説。現沖縄・北方相であり復興相も兼務している西銘恒三郎自民党側の候補で、野党側は金城徹というひと。西銘家は地元政界の名門で、父親が琉球政府時代から議員だったらしく、兄も元参議院議員で弟もなにか地元で役職を持っているとあったはず。西銘恒三郎自身は北方相や復興相のしごともあってあまり現地入りができないが、そのあいだ兄が名代としてバックアップし、各方面に対応してパイプを活用していると。父親の時代からかぞえると西銘の名をかかげて選挙戦をたたかうのは三四回目だという。たいする金城徹は翁長雄志の側近だったひとらしく、もともと自民党県連の幹部だった翁長が自民から離反して知事になったときにいっしょに自民を飛び出してついていったらしい。今回もいわゆる「オール沖縄」として辺野古基地移設反対を前面にかかげている(選挙区の範囲自体では、名護市は沖縄三区だかにあたって四区ではないらしいが、金城徹は辺野古のことは沖縄全体の問題だと訴えている)。「オール沖縄」勢力は翁長の死後革新色がつよまって一部保守派の離反をまねいたらしいが、玉城デニーが知事をつとめているのでちからをたもっており、金城徹の集会にも玉城デニーや翁長の息子などが駆けつけて応援していると。沖縄四区でもうひとつ争点となっているのが石垣島の安全保障問題で、尖閣諸島の状況を根拠に陸上自衛隊がここに基地をつくろうとしているが、革新勢力はむろんそれに反対している。
  • 国際面にはアメリカやドナルド・トランプスーダンのこと。バイデンの支持率が下がっているなか、ヴァージニア州の知事選で共和党候補が追い上げを見せており、この選挙の帰趨が政権の先行きをも左右しかねないので地方選としては異例の注目をあつめていると。オバマ民主党候補の応援にはいっている。ヴァージニア州はもともと保守の地盤だったのだが、数年前から首都ワシントンに隣接している北部にリベラル的な層があたらしく流入して、ここ何回かのもろもろの選挙では民主党がずっと勝っていたらしい。今回あらそいが伯仲しているのは、ドナルド・トランプはさすがに駄目だとおもってバイデンに投票した郊外のやや保守的な白人層が共和党に回帰しているからだと。この票田を取れるかどうかが勝負を決めるポイントであり、したがって民主党候補は共和党の候補とドナルド・トランプのむすびつきを強調し、彼はトランプの主張する陰謀論をひろめるだけで経済やコロナウイルスについてなどなにもはなしていないと批判し、他方共和党側も、バイデンのもとで信じられない教育計画がすすめられていると相手方を非難する。その教育計画というのは人種間教育機会均等法みたいな、そういう政策らしいのだが、白人保守層はこうした左派的施策を、白人至上主義が米国社会に組み込まれているとかんがえる「批判的人種理論」なるものの押しつけだとして反発しているらしい。
  • ドナルド・トランプはといえば、大手SNSから排除されている現在、じぶんの経営する会社で自前のSNSサービスをつくることにしたらしい。その名も、「トゥルース・ソーシャル」。
  • スーダンでは軍がクーデターを起こし、首相は拘束、抗議をおこなった市民たちに発砲がなされて、(新聞を読んでいるあいだにちょうどテレビでながれた情報によれば)すくなくとも三人が死亡、八〇人以上が負傷した。スーダンはもともと政情不安定で、いまの政府も民主派と軍が結託してクーデターを起こした結果つくられたものだったらしいのだが、それから時間が経って二者間に反目が起こったということなのだろう。
  • 食事を終えると皿を洗い、ポットに湯がまったくなかったので薬缶をつかって水をそそぎ、風呂も洗う。磨りガラスになっている浴室の窓のむこうがわに、おおきめのバッタがたかってゆっくりのぼっていた。キリギリスかもしれない。浴槽を洗って出るといったん帰室し、コンピューターを用意してから茶をつくりにいった。茶葉がエキスを吐くのを待つあいだ屈伸などしながら用意して、帰ると一服。そうして二時からきょうのことを書きはじめ、いまは二時四三分にいたっている。空から青さが減って大気に陽の色も見えなくなり、西のほうなど雲がひろく垂れこめてきている。
  • それから「読みかえし」。下の詩は321番および322番。

 たくさんの遠方を知る静かな友よ、感じてほしい、
 きみの呼吸が今なお空間を広げていることを。
 真っ暗な鐘楼の梁のなかで、きみの鐘を
 つかせてごらん。きみを響かせた空間は

 響きを鐘として力強いものとなる。
 変容しながら外へまた内へと向かうがいい。
 きみの一番つらい経験は何だろう、(end134)
 飲むのが苦ければ、自分が酒になるといい。

 充実しきった夜の闇のなかに浸って、
 自らの五官の十字路で魔力を発揮するといい。
 感覚同士が奇しくも出会うところに意味を見つけよ。

 地上にあるものがきみのことを忘れていたら、
 静かな大地に向かっては言うがいい、私は流れると、
 速い水の流れに対しては言うがいい、私は留まると。

 (神品芳夫訳『リルケ詩集』(土曜美術社出版販売/新・世界現代史文庫10、二〇〇九年)、134~135; 『オルフォイスによせるソネットDie Sonette an Orpheus より; ヴェーラ・アウカマ・クノープのための墓碑として書かれる; 第二部、二十九)

     *

 ほとんどすべてのものから、感受せよとの合図がある。(end137)
 どの曲り角からも風が知らせる、思い出せと、
 われわれがよそよそしく通り過ぎた一日が
 いつの日か決意して贈り物となってくれる。

 だれがわれわれの収穫を計算するのか。
 だれが昔の、過ぎ去った年月からわれわれを切り離せるのか。
 われわれが初めから知り得たのは、なによりも、
 一つの物は他の物のなかでこそ自分を知るということだ。

 なんでもない存在がわれわれに触れると熱くなるということだ。
 おお 家、牧場の斜面、夕べの光、
 とつぜんおまえはほとんど一つの顔となり
 われわれに触れて立つ、抱き、抱かれて。

 (神品芳夫訳『リルケ詩集』(土曜美術社出版販売/新・世界現代史文庫10、二〇〇九年)、137~138; Es winkt zu Fühlung fast aus allen Dingen,; 後期の詩集より)

  • そのほかはわすれた。