2022/5/19, Thu.

 (……)個々の場合、病人をいたわったり、大切にしてやったりすることは結構ですが、しかし、病気を精神的に尊崇するとなると、それは倒錯 [﹅2] というものです――ここのところをしっかりつかんでいただきたい――それは倒錯です、いっさいの精(end210)神的倒錯の端緒なのです。さきほどあなたが話題にされた婦人――その名前を思いだすことはいま断念します――ああ、そうですか、シュテール夫人、どうもありがとう――つまるところこの滑稽な婦人は――あなたがおっしゃった人間的感情にとってのひとつのディレムマを意味するものとは思われません。病気で無知――これは所詮悲惨そのものであって、事はきわめて簡単、つまりそこには憐みと軽蔑あるのみです。ディレムマ、すなわち悲劇 [﹅2] というものはね、あなた、自然で高貴で健全な精神を、人間生活に耐えられない肉体に宿らせ、それによってその人格の調和を無惨にも破砕するときとか――あるいは最初からそのような調和を不可能にしている――というような場合にのみ起りうるのです。(……)
 (トーマス・マン高橋義孝訳『魔の山』(上巻)(新潮文庫、一九六九年/二〇〇五年改版)、211)


 九時五三分に覚醒。さくばんはまた休んでいるうちに気づかず意識を失っており、もう夜も明けてカーテンを透かして早朝のあかるみがはいりこんでくる五時すぎにいちど覚め、そのとき払暁の白さと室内の蛍光灯のあかりが混ざって妙な白さになっていたのだが、その電気を消してふたたび寝ついた。一〇時前の覚醒後は布団のしたでしばらく深呼吸。息をながく吐いて呼吸につかう筋肉をほぐしておくと、その後の一日のなかで不随意的な呼吸も自然と深くなるようなので、からだが楽な気がする。一〇時二〇分に起き上がり、水場に行ってきて顔を洗ったり小用を足したりした。もどるときょうはつけっぱなしだったパソコンを持ってウェブをみながら脚をマッサージ。一一時二〇分から瞑想した。きのうにひきつづきさわやかな初夏の日和で、風が豊富かつ盛んで、あたり一帯をひっきりなしにめぐって草ぐさをざわめかせており、トタン板が打たれるようなおととか、家屋の周辺でなにやらバタバタいうおととかがきこえる。
 上階へ。ジャージにきがえてトイレで排便すると食事。素麺。母親はきょう、三時に家を出て職場の避難訓練のみ参加するという。(……)新聞一面は、ロシアがアゾフスタリ製鉄所から「投降」したウクライナ兵に尋問する旨を表明と。きのうの夜に夕刊でも読んだが、ロシア下院では捕虜交換禁止令というものが審議されはじめているようで(たしか下院議長が、ウクライナの兵士たちは戦争犯罪者である、裁きにかけなければならない、と言った当人だったとおもう)、ナチスと認定された兵とロシア兵捕虜を交換することを禁じるという主旨。また連邦捜査委員会は、アゾフスタリ製鉄所から「投降」した兵士が民間人への犯罪に関与していないかどうか調査をはじめるというが、そのあたりはロシアのことだからふつうにでっちあげることができるだろう。ロシア側の発表では、いままでに九六〇人が「投降」したという。国際面には、ロシア国内の国営放送でも侵攻を批判するような声がすこしずつ見られはじめている、という記事。退役大佐で軍事専門家だというひとが国営放送の討論番組で、我々は欧米の最新鋭兵器を提供された一〇〇万人のウクライナ兵と戦わなければならないかもしれない、耳通りの良い情報だけに飛びつかないようにしてほしい、みたいなことを述べたという。SNS上でも、今回のロシアの作戦のやりかたについて軍事専門家から疑問や批判の声があがっているらしく、米国は、こうした動向が世論に一定の影響を与える可能性はあるかもしれないとみているもよう。
 テレビは皺をなくすとかいうクリームの販売宣伝をながし、表情筋をおおきくうごかし、口もおおきくひらいてわざとらしい声色で商品を紹介する映像に母親は、ほんとかなあ、ほんとにきくのかなあ、ともらしていたが、まあたいしてききはしないだろう、けっきょく運動しなきゃだめだとおもうんだが、などと受けておいた。台所に食器を運んで洗い、風呂場に行って浴槽をこする。きのう下端をだいぶ念入りにこすって、入浴したときに、しっかりやったほうである手前側(入り口にちかいほう)はたしかに汚れがのこらず消えていたのだが、比較的手間をかけなかった奥のほうはやはりプラークみたいな感触がすこしだけのこっていたので、きょうは下辺の全体をきちんとこすったつもりである。出ると白湯を持って帰室。母親が布団を干したらというので協力してベランダの手すりにかけ(ガラス戸をあけたさいにヤモリが一匹落ちてきて、ベランダ上をかさかさすばやくうごいて消えていった)、きょうのことをここまで記すと一時。きのうの往路以降のことをなにも書いていないので記憶が薄れるうちにそれを書くべきなのだが、きょうは労働がみじかい予定だし帰ってからでもいいかなというゆるいこころになっている。

  • 「英語」: 463 - 478
  • 「読みかえし」: 788 - 792


 そういうわけで音読。しかしとちゅうで書きものをする気になってきのうのことを綴り、往路まで終えられた。よろしい。一時四〇分ごろに布団をとりこむ。両親の敷布団などが重そうなので母親のぶんもたしょうてつだう。それで二時くらいまで文を書き、そのあとすこし休みつつホッブズリヴァイアサン』を読んで、二時半過ぎから瞑想。鎖骨から首すじにかけてのあたりがじわじわとほぐれた。ストレッチも軽くしておいて上階へ。母親はもう出るところ。ちいさな豆腐をひとつ皿に出して電子レンジで加熱し、鰹節にショウガを添えて醤油をかけて食べる。新聞一面をあらためて見ると、米国が打ち出そうとしているあたらしい経済圏構想である「インド太平洋経済枠組み(IPEF)」(たぶんIndo-Pacific Economic Frameworkということだろう)に日本政府も参加する予定とあった。二三日に日米首脳会談が予定されているらしいのだが、その席で参加をつたえ、また米国もその日に正式な発足を発表する予定だという。参加予定国はオーストラリアや韓国、ニュージーランドシンガポール、マレーシアなどで、台湾も参加を模索しているもよう。デジタル方面をふくめた貿易の円滑化、インフラ整備や脱炭素、税や腐敗対策などが主な内容。ドナルド・トランプ政権がTPPから離脱したため、その代わりとしてインド太平洋地域の空白を埋める必要があるということで構想されたらしい。ただ、TPPなどの自由貿易協定とはちがって関税の引き下げなどはふくまれておらず、市場開放をもとめる東南アジアの国々にとってみるとそのあたりが不満かもしれないとのこと。
 皿を洗ってもどってくると歯磨きをし、白湯を飲んでここまで書き足せばもう三時半前。


 帰宅後、休息中や夕食後にMaria Konnikova, “Why Can’t We Fall Asleep?”(2015/7/7)(https://www.newyorker.com/science/maria-konnikova/why-cant-we-fall-asleep(https://www.newyorker.com/science/maria-konnikova/why-cant-we-fall-asleep))を読んだ。

But it may be that the most important aspect of sleep hygiene has to do with light—which, of course, has gotten more pervasive during the past century, especially at night. Humans have evolved to be exquisitely sensitive to the most minute changes in the light around us. In fact, there are specific photoreceptors in the eye that only respond to changes in light and dark, and which are used almost exclusively to regulate our circadian rhythms. These melanopsin receptors connect directly to the part of the brain that regulates our internal body clocks. They work even in many people who are blind: though they can’t see anything else, their bodies still know how to adjust their circadian clocks to stay on schedule. Light helps the body predict the future: it’s a sign of how our environment will change in the coming hours and days, and our bodies prepare themselves accordingly. As the Harvard circadian neuroscientist Steven Lockley told me, “Our clocks have evolved to anticipate tomorrow.”

     *

Czeisler has found that artificial light can shift our internal clocks by four or even six time zones, depending on when we’re exposed to it. In one study, out earlier this year in the journal PNAS, Czeisler and his colleagues asked people to read either a printed book or a light-emitting e-book about four hours before bed, for five evenings in a row. The effects were profound. Those who’d read an e-book released less melatonin and were less sleepy than those who’d read a regular book; their melatonin release was delayed by more than an hour and a half, and their circadian clocks were time-shifted. It took them longer to fall asleep. The next morning, they were less alert. These resetting effects can result not just from prolonged reading but from a single exposure. In his sleep lab, Lockley has seen it happen after exposing subjects to short-wavelength light for less than twelve minutes.


 出勤。この日も電車を取った。玄関を出ると向かいの家で老人がひとり、脚立だったかよくみなかったがなにかのうえにのぼって入り口の木を剪定している。こんにちはとあいさつ。たぶん(……)さん、すなわち(……)ちゃん((……)さん)の縁戚だとおもうのだが。亡くなった(……)さんの姉妹の旦那というあたりではないか。これからお仕事? ときかれたのではい、と返し、行ってきますとのこしてみちを西へすすんだ。きのうとおなじく林のいちばん外側、みちに接した石段のうえにひろがる草むらの、さらにそのいちばんそとに茎をつきだしたさきから穂を垂らした草が群れなして、ゆるい曲線をいくつも描いているのをみながらあるいていった。空にみずいろはみられず、ほとんど模様もかたよりもなく薄白さが一面にひろがっているが、公団前まで来るとこちらの影がみじかくほんのうっすらと湧く程度のあかるさもあった。坂道に折れる。きのうとはちがって路上に日なたと影の共演はなく、ガードレールさきの樹々もひかりをちりばめられることはなく、ただシールを貼ったような白さを葉のいちまいいちまいに塗られた樹がひとつふたつみられた。空気はぬるい。坂を抜けて街道前に立てば太陽は雲のむこうからいくらかすがたを透かしており、肌にたしょうのぬくもりが降りかかってくる。駅のホームにわたってさきへ、すこしむこうの踏切付近で機械をもちだして草を刈っているらしいおとがきこえていたが、ようすはみえなかった。線路にむかって立ち、電車を待つ。風はきのうよりひかえめであまり駆けない。丘のみどりのうごめきも鈍い。午前や昼下がりには部屋にいてもよくめぐっているのがきこえたが、雲が湧いたそのしたでうごきを抑えられたか。それでも立っているうちに線路沿いの草ぐさはふるえた。
 電車に乗って移動。山帰りの高年たちが多かった。降りる段になって老人らが出口のほうに狭苦しく寄せてきたりとか、降りてもむかいの乗り換え電車に席をとるためにせわしく急いだりとか、からだがちょっとぶつかっても声をかけるでも会釈でもないとか、ひととかかわらねばならず自閉のしにくい時代を生きてきたはずなのに、いまの世というのは年寄りこそ余裕がないようにみえるななどとおもった。駅を抜けて職場へ。勤務。(……)
 (……)
 (……)
 (……)
 帰宅後はきのうの日記を書くなど。夜半すぎに終わったが、投稿する気力はなくてそのあと休んでしまった。だらだらとだいぶの夜更かし。