2022/10/18, Tue.

 では、これで終りなんですね、フェリーツェ、この沈黙であなたはぼくを追い払い、ぼくにとってこの世で可能な唯一つの幸福に対する希望に終末を与えるのです。しかし(end355)なぜこんなに恐しい沈黙をするのですか、なぜ一言も卒直な言葉をくれないのですか、なぜこの数週間あなたはぼくのことで目に見えるほど、恐しいほど目に見えて、苦しんでいるのですか? それはもうあなたの方からの同情ではありません。ぼくがあなたにどれほど無縁な人間であったにしても、ぼくがこの覚束なさのためひどく悩み、時には正気を失うほどであることは、あなたも分っているはずですから。それにこのような沈黙で終るのは同情であるはずもないのです。自然の成行は必然で、どうしようもなく、ぼくがあなたを知れば知るほど、ぼくは一層あなたを愛し、あなたがぼくを知れば知るほど、ぼくは一層あなたにとって我慢できなくなりました。ただあなたがそれを悟りさえしてくれたらよかったのですが。卒直にそれを語ってくれたら。五日間の旅行から一言でもぼくに書くこと、ぼくがあなたに決断を乞うているいくつもの手紙に一行でも答えること、あれほど長くお便りをもらっていないという不幸のなかのぼくをなんとかして慰めること、それがあなたにとって不可能になるまで、それがもうどうしても我慢できなくなるまで、あなたは待っていなければよかったのですが。お電話をした昨日でも、ぼくはお声がきけるという幸福のあまり、耳がざわざわして、ほとんど分らなかったのですが、あなたはぼくに言いました――日曜日の晩ぼくに書いたから、遅くとも今日、火曜日にぼくの住居の方に届く、と。いいえ、なにも届きません、あなたは日曜日に、いや電話で話したあと月曜日にさえ書かなかったし、書くことができないのです。しかしまた、書くことができないと言うこともできないのです。あなたが昨日ぼくに言った唯一つの自発的な言葉が、お元気ですかという問いだったことを考えると、ぼくは本当に頭がおかしくなります、これではぼくはもう生きていくことはできません。おそらくもうそう勧める必要はないでしょうが、それでもぼくは明白にお願いします。もうぼくに書かないでください、一言も。あなたの心が語るように行動してください。ぼくもあなたに書かないでしょう。あなたは非難をきくことなく、もう邪魔されないでしょう。そしてただ一つあなたの記憶に留めて頂くようお願いしたいのは、どれだけ沈黙の時が流れ過ぎようと、あなたが心から [﹅3] 呼びかけるなら、それがどんなに微かであろうと [﹅14] 、今日もそしていつまでも、ぼくはあなたのものなのです。
 (マックス・ブロート編集/城山良彦訳『決定版カフカ全集 10 フェリーツェへの手紙(Ⅰ)』(新潮社、一九九二年)、355~356; 一九一三年五月二七日)




 七時くらいからだんだんあいまいに覚醒をはじめた。時間をさだかに確認したのは八時台。そのまえ、四時台にもいちど起きた記憶がある。昨晩はよくあるいた疲労のためか、また休んでいるうちに意識をうしなってしまったので。天井灯のほうは切っていたものの、デスクライトをつけたままだったのでそれを落として眠りについた。あいまいに覚めたあたりから深呼吸をちょっとしたり、カーテンの端をめくって曇天の白さでまぶたをひらかせたりしており、八時台にいちど床を抜けて、水を飲むとともに顔を洗った。そうしてまたすぐにもどり、ウェブを閲覧したり、過去の日記を読み返したり。一年前のニュースが以下。

ほか、EUとイギリスのあいだで北アイルランドをめぐって悶着がつづいているとの記事。北アイルランドアイルランドとのあいだで宗教ほかの対立があるのでそのあたりを再燃させないよう、EU側の貿易ルールをのこすことになったのだが、そうするとこんどはイギリスから北アイルランドに物資をはこぶ際に検査などしなければならず手間になっていると。ルールを取り決める議定書が交わされているのだけれど、イギリス側は再交渉をしたいともとめるいっぽう、EU側は多少の譲歩案をしめしながらも再交渉の意思はないとはっきりことわっている。譲歩案というのはイギリスからはいる物資には特別なラベルを貼ってそれで検査を免除するという方策で、EU側のいいぶんによればそれで事務処理などかなりの割合がカットできるという。ただもうひとつ、イギリス政界の一部が問題視しているのが北アイルランド貿易にかんしてなにか紛争が起こったときに、それを解決するのがEUの最高司法機関である欧州司法裁判所だとされている点で、これは主権の侵害だと彼らはみなしており、独立の仲裁機関にゆだねるべきだと主張しているらしい。実務的な面と権利的・観念的な面がごっちゃにされたまま議論がつづくと泥仕合になる公算がつよいと記事は締めくくっていた。

 風景や天気方面の記録はちょくちょくいろいろしているが、目にとまったのはしたの三つくらい。「金色円」はたぶん「こんじきえん」と読ませるつもりだったのだろう。「雲床」なんていう語もわざわざつくって書いている。

駅につくとベンチに座り、しばらく瞑目。左右にながれていくものがあって寒いには寒いが、ふるえるほどではない。あたりからは多種の虫の音が交雑的に、しかしそれぞれのリズムとペースはほぼ一定に保ちつつ生まれつづけており、入り組んだ声のドームをかたちづくって人間たちをつつみこんでいる。線路をはさんで向かいの細道を車が行けば、聴覚野の左から右へその音がすべっていくのがかんじられるとともに、瞑目のうちにおのずから、正面の空間や道の様子とそこをながれていく車の想像的なすがたが(あいまいな想像なので車種もかたちも不完全であまりあきらかではないのだが)、音の場所と一致するようにしてあたまのなかに浮かんで動く。

     *

(……)に着くと降り、ホームを行って、階段際で見上げれば空は例の沼のような青さに満ち満ちており、そのなかに雲がうっすら襤褸布のようにけむっているらしき濁りがかんじられた。駅を抜けてまた見上げると南に向かう空のまんなかあたりは雲たちの影がだんだんと音量を落としていく八分音符の連続のように整然とならんで伸びており、その下方から東にかけてはトワイライト・ブルーというべき醒めたうつくしさがなめらかに塗られて透きとおり、果てではもはや暖色をうしなって甘酒のように白っぽく褪せたひかりのなごりも水面下へと引きずられながら空気をもとめて抵抗するひとのように、かろうじて見える弱さで浮遊していた。

     *

月は左下をすこしだけかくしたすがたでまた満月にちかづいており、ときおり雲に巻かれてぼやけながらもあざやかな金色円として高みにうちあがっており、淡い赤でふちどられたひかりのころもを雲床にひろくやどらせたその金円はあるくあいだにもますます高く浮かんだようで、街道に出たころにはずいぶんちいさく収縮して隕石のようになっていた。

 2014/3/12, Wed.のほうは、これはとうじ読んでいる柴崎友香『ビリジアン』に影響されたなという書き方になりはじめている。この日の欄外にはまだそれについての言及はないが、書抜きをたくさんやっている。とうじこの小説を読んだとき、こんなに簡素で泡みたいに軽い、じつに淡々とした文でも行けるんだなとおもい、それに比べるとじぶんの文章が自意識のにじみもふくめてよほど重いように感じられて、うらやましくおもったのだった。それでしばらく真似をしていたはず。ところで二〇一九年の二月に(……)さん・(……)さん・(……)さんと四人で会食したときに、(……)さんが、まえにもっと簡素な文体でやられてたときもありましたよねと口にして、それはたぶんこの『ビリジアン』に影響されていたころのことだとおもって、え、そんなにまえから読んでいてくださったんですか、とおどろいたことがあったのだけれど、そういう理解で合っていたんだろうか、ほんとうにこの二〇一四年とうじから読んでくださっていたのだろうか? そうだとしたらけっこう恥ずかしい。ちなみにこの日は大西巨人の訃報に接している。
 そのあとGuardianもちょっと読む。ウクライナの概報と、Kanye Westが右派のSNSであるParlerというのを買い取ったというはなし。Kanye Westっていまそういう感じだったの? とおもったが、このParlerの親会社であるParlement Technologiesの経営責任者のGeorge Farmerというひとは、Kanye Westの友人であるCandace Owensというひとと結婚しているといい、このOwensはrightwing activistであるらしい。また、George Farmerの父親であるMichael Farmerというひとは、the former Conservative party treasurer and peerだと。もともとこのSNSは二〇一八年にJohn MatzeとRebekah Mercerという人物がつくったが、このうち後者は、〈the daughter of the billionaire hedge fund manager and Breitbart co-owner Robert Mercer〉である。いま委員会による調査が大詰めをむかえており、先般ドナルド・トランプにたいする召喚状も決議された二一年一月六日の議事堂襲撃事件だが、あれに参加したにんげんの多くがこのSNSをつかっていたということで、Matzeは追放され、二一年五月からFarmerがその地位にはいったと。それでKanye WestはFox Newsに出演してTucker Carlsonのインタビューを受けたりもしているというから、もうかんぜんにそちらのほうのひとじゃないですかという印象ではある。Instagramのチャットでも、〈he accused Combs [Sean Combs, known by his rapper aliases Diddy and Puff Daddy] of being controlled by “Jewish people”〉ということで、典型的なユダヤ陰謀論者の発言をしているように見える。Instagramのアカウントが停止されると、さらにはTwitterでも、〈he would be going “death [sic] con 3 On JEWISH PEOPLE. The funny thing is I actually can’t be Anti Semitic because black people are actually Jew also[.] You guys have toyed with me and tried to black ball anyone whoever opposes your agenda.”〉と投稿したと。death con 3というのがどういう意味なのかわからなかったので検索したところ、これはもともと軍事用語のdefconだろうといわれている。defense condition、防衛基準態勢ということで、それには安全保障上の脅威にたいして五段階のレベルがさだめられており、5がいちばんひくくて1が最高の警戒だと。
 一〇時ごろ床をはなれた。椅子に座り、あたまをうしろにあずけて、しばらく首を左右に往復させたのち、一〇時一三分くらいから瞑想。けっこうよろしい。座ってじっとしていればそれでOKというところにわりと回帰できている。この日はめずらしくというか、たまにあることだが、後半から眉間がムズムズする感覚がつづいた。子どものころにあいてやじぶんの目のあいだにゆびをちかづけてムズムズさせる遊びをやったが、あんな感じで、疼くというかじれったい痺れみたいなものがそこにとどまりつづけて、それはたぶん後頭部あたりのすじとつながっているのではないかとおもわれたが、さだかではない。座っているうちに消えるかとおもって見ていたけれど、けっきょくさいごまで消えきらず。薄くはなったが。じきに脚の痺れがつよくなってきたので、顔や腕やからだをさすってから目をあけると、一一時四〇分。三〇分にいかないくらいだ。
 食事は体調がわるくなるまえに食っていたレトルトのハヤシライスがのこっていたのでそれを食べることに。鍋に水をそそいで火にかけ、沸騰を待たずパウチをさっさと入れてしまい、待つあいだはからだをちょっとうごかしてあたためる。沸騰してちょっとするとパック米もレンジで加熱して、木製皿に出してスプーンでほぐすとレトルトパウチも湯から取り出して鋏で切り、米のうえにかけた。つぎに電子レンジのケーブルを電気ケトルのそれとつけかえ(レンジは入り口脇の靴箱のうえに置いてあり、ケトルはレンジのうえに乗せているが、そこから上方にあるコンセントは口がひとつきりのため)、湯を沸かして即席の吸い物も飲むことに。高熱のハヤシライスをいきなり胃に入れるのに気が引けたので、そのまえに豆腐を食べることにしてそれも用意した。そうしてウェブを見つつ食事。
 食後は皿を洗って、音読をいくらか。それで正午を超えた。また一〇分少々、ちょっとからだをうごかしたのち、椅子についてきょうのことを記述しはじめた。ここまで記せば一時半前。わるくない感じだ。曇りの日だとおもっていたが、朝とくらべると次第に空気の明度があがってきて、さきほどからレースのカーテンに薄いあかるさが浮かび上がる時間もままある。しかし洗濯をするにはやや遅い気もする。このさきどれだけひかりが出るかもわからないし。とはいえいまシャワーを浴びるついでに洗ってしまうのも良いかもしれない。


     *


 いまちょうど午後八時。きのうの記事をさきに書いて仕上げた。良い調子だ。日々の記述であとのこっているのは一五日、一六日。一五日は(……)くん・(……)くんとの通話のことだけ記せればよいというか、二時から八時くらいまでかれらとはなしていたし、ほぼそれだけしかなかった日だ。一六日も日曜日で籠もっていたし、もうおぼえていないし、ニーチェの感想も書いているからこの日はかたづいたとして良いだろう。きのうのことはあとあれだ、通話時のことをまだ書いていないのだった。しかしさいきんは書かずに済ませることも多いから、それは気分しだいで。きょうは先ほど、三時半ごろだったか外出して郵便局に金を下ろしに行ったり、スーパーで買い出ししたりして来たので、その道中のことを書きたい。しかしいったん休む。だが野菜スープもつくりたい。


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 うえまで書いたあといったん布団に逃げて臥位になり、Chromebookでウェブを見ながらだらだら。一時間ほど。それで立ち上がると野菜スープをつくることに。しかしそのまえにその場足踏みでちょっとからだをうごかす。先日寝そべった姿勢でふくらはぎを揉むあれがやはり大事なんではとおもったときに「ゆる体操」を検索して、たしょうほかのうごきもみたのだけれど、そのなかに「足ネバネバ歩き」というやつがあってこれをきのうあたりからよくやっている。要はその場で足踏みをする運動のバリエーションで、ただし足をかんぜんにあげるのではなく、爪先が床に貼りついてしまったかのように踵だけをあげて、ネバネバするようなイメージであるくというものなのだが、擬音をつかったアホっぽい名称のわりにこれがよくて、しばらくやっているとここちがよくなり、からだぜんたいが落ち着いてなんだかまとまってくる感じがあるのだ。むかしパニック障害の全盛期だったころに「スワイショウ」という両腕を前後に振る運動をけっこうやっていたことがあるが、それをしばらくやったときの感じと似ている気がする。このネバネバ歩行は踵を上げるわけなので脚の筋肉もよくうごいて血が巡るのだろうし、くわえてリズム運動はセロトニンが出るとよくいわれているからその効果もあるのかもしれない。目を閉じてゆっくりやっているとなかばうごきながらの瞑想のようになってくる。それで全身やからだの各所の感覚をかんじながらやっているわけである。そうしてみると、踵をあげたときに左右に上体がふれるそのふれかたがやはり均一でないような感じがして、なんとなく右にふれるときのほうがおおきくなり、左にはあまりかたむかない気がするのだけれど、これもなにかしら背骨にむすびついているのではないかという気がする。たぶん、肩甲骨のあいだの背骨の左側のきわになにかあるとおもうのだが。寝床で胎児のポーズを取って背骨をほぐすために左右に揺れるときも、右にかたむくときが行きやすく、そこからもどるさいに背骨の左際にひっかかりが生まれるというか、左からもどるときよりそこにちからがはいる感じがある。とはいえきょう足踏みしている感じでは、きのうおとといよりも不均一を感じなくなった気がするが。いずれなんでもよろしいのだけれど、このネバネバ歩きは全身の統合を高める効果があるようにおもえるし、ここちがよくておりおりやりたくなってしまう感じだ。なのでそれを一〇分くらいやってから料理にはいった。切ったものを鍋で炒めるのがめんどうくさいのでもうさいしょから煮込めばいいやとおもい、水を汲んで火にかけると、とはいえ水だけで煮るのもなんかなとおもったので、麺つゆを少量くわえておいた。味つけは味噌でするつもりなのだが。それでまずエノキダケを切る。これは買ってもう数日経ってしまったし、ぜんぶつかおうということでありったけぶちこんだが、すると水の表面がキノコで埋め尽くされるような具合になった。そのほか白菜のあまり、ニンジン、タマネギまで入れると、もともとの水の量をおおくしていたのでそれでいっぱいいっぱいになり、大根とネギは断念。最弱にちかい火にしておき、まな板と包丁を洗って椅子につくと、きょうのことを書き足しはじめたが、すぐに吹きこぼれた音がしたのでながしに立ち、まだわずかしか出ていない灰汁をすくってちょっと湯の量を減らしておくと、火をさらに弱めてじっくり煮込む。さきほどあご出汁とかもくわえておいた。いま一〇時一七分。どうも雨が降ってきた気配がある。窓外でチリチリ鳴っているので。
 一時半まできょうのことを書いたあとはシャワーを浴びた。薄光があったのでやはり洗おうと洗濯機を稼働させ、いま着ていた肌着も取って全裸になると水が溜まるのを待ち、洗剤を入れて蓋を閉めると浴室にはいった。それで湯を浴び、出てくると髪を乾かして、一四日の記事をかたづけて投稿したはず。洗濯物も干した。しかしやはりその後ひかりは出つづけず、干しながら見てみると直上ははびこった雲のすきまに水色がちらほら見えないでもないが、遠くはそのほころびをゆるさずなだらかな白と灰と薄青の混合色がつづいており、ながれる空気もやや冷たさに寄っているし、これだとまずかったかなとおもう空と大気の模様だった。しかし洗ってしまったからには干すほかはない。それで一四日分をかたづけたあとは(写真を付しておくのをわすれたことに気づいてのちほど再投稿しておいたが)またいったん寝床で休んで、それから買い出しに行くことにした。昼間のうちからそとに出る気になっているあたり、心身の回復がみえる。服はきのうとおなじくブルゾンとブルーグレーのボトムス、まだ四時前だったからついでに郵便局にも行って、金をおろすとともに記帳もしておこうとリュックサックに通帳を入れて、それで部屋を抜けた。ポストに郵便物はない。保育園には自転車の迎えが来ており、二階からはまだのこっている子どもたちがわいわい遊んでいる声もガラスをつらぬいて聞こえてくる。右折してさらに右折。家屋なのかなんなのかわからないが、建設途中のおおきな建物のまえでは人足が三人地べたにあぐらで座りこんではなしをしている。その向こうには幅広の道の左右にそれぞれバス停があり、こちらが歩いているのは右側の端で、そこのバス停前には老婆がひとりぽつねんと腰掛けて車を待ち、向かいのほうには座る場所もないので男ふたりが立っている。郵便局はすぐそこである。はいると手を消毒して、ATMは先客がいたので両手をこすりながら所定の待ち位置についたが、すでに終わっていて去るところだったのでたがいに会釈を交わして機械のまえに立った。通帳を入れて五万をおろす。預金が三五万になってしまったのでやばい。金を財布に入れて局を出るとその場で通帳の記録をまじまじながめておき、しまって道をもどる。あしたが水曜日でペットボトルなどの回収日のため、あるアパートのまえには籠にボトルやら缶やらがあふれんばかりに入れて置かれている。しかしいまハンドブックをみてみるとペットボトルの回収は水曜ではなくて金曜日だった。曜日が来なくても、ふだんからもうああして入れておくのかもしれない。スーパーにも行くつもりだったがすこし小便がしたかったので、いちど部屋にもどって用を足しておくことに。それでアパートの階段をあがり、部屋に入るとスリッパに履き替えてトイレに入り、小便をするとまたすぐに出た。こんどは左折していつものルートで向かう。空気はかなり涼しくて、肌寒さに転じる境の一、二歩手前という具合で、きのうよりもあきらかに気温が低く感じられたが、これは空腹のためもあったのかもしれない。空は晴れず、西南方向の白雲のなかに太陽の薄影がわずかにみえるが、薄陽を漏らすちからすらなく、これは帰ったらもう洗濯物は入れたほうがいいなとおもった。公園では子どもら数人が滑り台にあつまって声を立てており、そのなかのひとりの親なのか、大人もひとりちょっとはなれた座に腰掛けてそちらをみている後ろ姿だ。滑り台はオレンジや赤の色でできており、うえの入り口からとちゅうまで筒状になっているタイプであり、すがたは見えないがそのなかに何人かいるらしかった。右に曲がって路地にはいると一軒の庭に青紫色の花をほそながく房状にいくつもつらねて伸ばした植物があって目にとまる。フジをおもわせるようでもあるが、色もかたちの感じもぜんぜん違う。なんという種かむろん知らない。おもてに出ると渡って再度裏道、こちらでは小綺麗な家のまえにならんだ低木のうち、ほかはぜんぶ丸っこいが一本だけ青の気味がつよいビリジアンめいた色で矢印みたいに立っているのが目を引いて、針葉樹なのか、視力のせいもあって輪郭がわずかにかすんで見えるそのすがたが、大量の筆触が天に向かって引かれたような、なだれ落ちる水のながれが逆転して時をとめられたような、そんな印象をもたらした。


     *


 小公園を過ぎるあたりで前方から小学生女子がふたり来て、ひとりがもうひとりに、その手袋かわいい、と言ってゆびを向けていた。そこにすでに自意識をおぼえてときに世辞や方便もつかいながらじぶんと他人との距離をはかろうとするような、にんげんとしてのコミュニケーションの気配を見る。裏道を抜けて横断歩道をわたればそこがスーパー、入り口脇にははやくもクリスマスのケーキやお節の予約を知らせるチラシが置かれてあった。はいる。さきほど郵便局で消毒をしたからここではいいだろうとそのまま籠をつかみ、いつもどおり手近の野菜の区画からまわる。サラダ用にサニーレタスやトマト、キャベツの半玉や、汁物にするためのニンジンやタマネギなどをえらびとっていく。ドレッシングやハムも。とちゅうで皮剥きを買うんだったとおもって調理器具のある棚に行ったが、なんどかまじまじみてみても皮剥きは見出せなかった。どうも売っていないらしい。周辺を見ているときに電池を目にして、電池も買うんだったとおもいだしたのは具合がよかった。エアコンのリモコンのそれが切れかけていて、もう表示が出ないくらいになっていたのだ。その他豆腐やヨーグルト、腹も減ったしなんかメインとなる食い物を買って帰ろうかなとおもい、惣菜や弁当方面を見て、まあひさびさに寿司でも食うかという気持ちになって、海鮮ちらし寿司を選択した。さらにソーセージのはさまったパンや小球状のクリームパンが一〇個はいったやつなど。そうして会計へ。いつもの(……)氏もいたがべつの列にはいってみると、はじめて見る年嵩の婦人で、名札を見たがなんといったかわすれてしまった。(……)とかだったか? 愛想がはじけるタイプではなく、声色もあいまってややぶっきらぼうとみえなくもないが、品物を読み取ったあと籠に入れていく手のうごきはやさしげであり、あきらかにしずかに丁寧に置こうという意識をはたらかせていて、なにかのもののうえになにかを乗せるときなど、乱暴や粗雑に見えないように、音が出ないように注意している。なめらかさとはまたちがうこのそっとしずかなやわらかさはこれまで遭遇してきたほかの店員にはないものだ。読み込みが終わると台の側面にあたる精算機にうつり、籠をその脇に乗せてくれるのを礼を言って受け、会計。そうして整理台にうつり、いつものようにまずリュックサックに入れられるものを詰め(そういえばソフトパックのティッシュも買ったのだった)、余ったやつをビニール袋に。籠を手近のカートにもどして退店。帰り道も来たのとおなじルートを取った。裏道にはいればすぐに風がまえからやってきて、肌にちょっと冷たく感じるくらい、きのうよりも気温はたしかに低いとおもわれて、途上の空には雲のほつれた水色もところどころにないではないが、振り向いて西空を見ればすきまはないし、遠くの雲は地の青さとはまたちがった水っぽい青みを潤沢にはらんで畝をつくって垂れそうにしているので、雨になってもおかしくないなと見えた。じっさい、夜には降ったようだ。あるいているとうしろから抜かしていく中年女性のかっこうが、したは浅い襞をおおくつくった濃紺のジーンズ、うえは水色のチェックシャツで、そのうえにまとったピンクのエプロンの肩紐が、からだにきちんと合うのではなくて左にかたよったありさまで、歩き方をみてもやや不安定にふらふらしており、歩が意味も意図もなく左右に散るし、顔は終始うつむかせて丸まった肩がいかにも自信なさげで、じぶんの存在に罪責感をかかえているかのような、顔にかぎらずからだぜんたいの表情だった。アパートのある路地まで来ると公園から犬の散歩の老女が出てくる。往路とは顔ぶれが変わったようだが、子どもはまた滑り台に遊び、保護者がふたりだかそれを立って見ている。保育園のまえではお迎えのやりとりがつづいていた。建物にはいって階段をのぼり、部屋に帰還。服をジャージに着替えて、洗濯物を入れてから手を洗い、買ってきたものを冷蔵庫におさめた。こんな天気ではとおもっていたが、入れたシャツやパンツにふれて鼻を寄せてみると意外にもけっこう乾いていて、においもひとまずしなかったので、タオルはあしたもういちど出すとして肌着類はもうたたんでしまうかとかたをつけた。そのあと食事。買ってきたちらし寿司とパン二種をぜんぶバクバク食ってしまうという暴挙。それだけ食欲が出たのは良いことだが、調子に乗るとまたからだが傷むだろうから、油断をせずにいたわらねばならない。大根おろしを少量おろして腹に入れておいた。
 一〇時台以降にたいしたことはない。だらだらしたり。あれだ、ちょっと休んでから野菜スープを食べようとおもって寝床に行ったのだけれど、まどろんでしまい、気づくともう零時になっていて、野菜スープは最弱火力とはいえ煮たままだったから、野菜はもうくたくたになりきっていた。それもまあよい。遅くなってしまったし、なんだったらさきほどカロリーの高いものをたくさん食べたからそんなに空腹もおぼえていなかったのだけれど、味噌を入れて食べることに。うまい。そうして深夜は詩に行を足す気になった。二種やっていくらかすすむ。ひとつはもうそろそろ終わりが近い感があるが、どう終わらせればよいのかあいかわらずわからない。いちおううまい具合に一連閉じてしまったけれど、ぜんたいとしてはこれでは終わりにはなれないというところ。もう一篇はそんなにながくなる気配もないし、わりとさらっとながれる気がするが、まだとちゅう。たぶん小説もそうなのだとおもうけれど、これで終わり、ここで終わりというのが、その直前になるまでわからない。ことばを足しているうちに、ここか、という感じになる。ここになっちゃったか、こういう感じでまとまっちゃったか、ということも往々にあるというか、そう言えるほど数をつくっていないけれど、いままでつくった数篇はどれもそうなったとも言える。
 そういえば写真はまた出先で撮るあたまにならなかった、というかそもそも携帯を持って出なかったので、帰ってきて休んだあとだかに、なんかそのへんの壁でももう撮っとくかとおもって、至近から撮影した。トイレ兼洗面所兼浴室のドアの右脇にあたる。いったいこんな、まるでどうでもよいような写真を日々撮ってなんになるのかという疑問はあるが、事物のようすをまざまざとというかまじまじとというか、物質的に明晰にうつしだしてくれるという点だけとっても、おもしろみがないわけではない。20221018, Tue., 182857。

20221018, Tue., 182857


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  • 「ことば」: 16 - 20
  • 「読みかえし2」: 208 - 214, 215 - 220
  • 日記読み: 2021/10/18, Mon. / 2014/3/12, Wed.


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Helen Sullivan, “Russia-Ukraine war latest: what we know on day 237 of the invasion”(2022/10/18, Tue.)(https://www.theguardian.com/world/2022/oct/18/russia-ukraine-war-latest-what-we-know-on-day-237-of-the-invasion(https://www.theguardian.com/world/2022/oct/18/russia-ukraine-war-latest-what-we-know-on-day-237-of-the-invasion))

Moscow stepped up attacks across Ukraine on Monday, killing four people and cutting off power in a series of kamikaze drone strikes in the capital. Ukraine’s prime minister, Denys Shmygal, said Russia launched five strikes in Kyiv, as well as attacks against energy facilities in Sumy and the central Dnipropetrovsk regions, knocking out electricity to hundreds of towns and villages.

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Ukraine announced that more than 100 prisoners have been swapped with Russia in what it said was the first all-female exchange with Moscow after nearly eight months of war. “The more Russian prisoners we have, the sooner we will be able to free our heroes. Every Ukrainian soldier, every frontline commander should remember this,” Zelensky said.

In the south, Ukrainian troops have been pushing closer and closer to the large city of Kherson, just north of Crimea. Kherson is one of four regions in Ukraine that Moscow recently claimed to have annexed.

Ukraine’s foreign minister called on the European Union to sanction Iran for providing Russia with kamikaze drones that killed at least four civilians in Kyiv on Monday.

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The European Union has agreed to create a mission to train 15,000 Ukrainian soldiers. It will also provide a further €500m to help buy weapons. An EU foreign ministers meeting on Monday approved the two-year training mission, which will involve different EU forces providing basic and specialist instruction to Ukrainian soldiers, in Poland and Germany. Officials hope the mission, which is expected to cost €107m, will be up and running by mid November.

Israeli officials refused to comment on comments from Dmitry Medvedev, Russia’s former president, that Tel Aviv is preparing to supply military aid to Ukraine. In a Telegram message on Monday, Medvedev, currently deputy chair of Russia’s security council, warned Israel against arming Kyiv, calling it a “a reckless move” that would “destroy relations between our countries”. Israel has tried to maintain a neutral stance, as it relies on Russia to facilitate its operations against Iranian-linked actors in Syria.


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Alex Hern UK technology editor, “Kanye West to buy rightwing social network Parler”(2022/10/17, Mon.)(https://www.theguardian.com/technology/2022/oct/17/kanye-west-to-buy-right-wing-social-network-parler(https://www.theguardian.com/technology/2022/oct/17/kanye-west-to-buy-right-wing-social-network-parler))

Kanye West is buying the rightwing social network Parler for an undisclosed sum, the site has announced.

The purchase by the rapper, who legally changed his name to Ye last year, is expected to close in the fourth quarter of this year.

“In a world where conservative opinions are considered to be controversial we have to make sure we have the right to freely express ourselves,” he said in a statement.

George Farmer, the chief executive of Parler’s parent company, Parlement Technologies, said: “This deal will change the world, and change the way the world thinks about free speech. Ye is making a groundbreaking move into the free speech media space and will never have to fear being removed from social media again.”

Farmer, who is married to West’s friend the rightwing activist Candace Owens and is the son of the former Conservative party treasurer and peer Michael Farmer, added: “Once again, Ye proves that he is one step ahead of the legacy media narrative. Parlement will be honoured to help him achieve his goals.” Parlement Technologies will continue to operate as an independent company, according to a press release, providing “technical support and the use of private cloud services” to the Parler site.

The social network was founded in 2018 by John Matze and Rebekah Mercer, the daughter of the billionaire hedge fund manager and Breitbart co-owner Robert Mercer. But the fact many of those who carried out the 6 January storming of the US Capitol used the site led to the ousting of Matze and his replacement in May 2021 by Farmer.

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West’s move to acquire the site comes after a series of antisemitic outbursts led to his account being blocked from posting on Instagram and Twitter. After donning a “white lives matter” shirt alongside Owens during Paris fashion week, West joined the Fox News host Tucker Carlson for an interview in which he accused Trump’s son-in-law, Jared Kushner, of having worked with the Israeli government for personal profit.

He then took to Instagram to share the contents of a text chat with Sean Combs, known by his rapper aliases Diddy and Puff Daddy, in which he accused Combs of being controlled by “Jewish people”. After West’s Instagram account was suspended in response to the post, which the American Jewish Committee called “anti-Jewish”, he turned to Twitter, where his account had been dormant for some years.

There, he posted that he would be going “death [sic] con 3 On JEWISH PEOPLE. The funny thing is I actually can’t be Anti Semitic because black people are actually Jew also[.] You guys have toyed with me and tried to black ball anyone whoever opposes your agenda.” Twitter quickly deleted the post and locked his account.

His last outburst came less than half an hour after the would-be Twitter owner Elon Musk had personally welcomed him back to the site, and a few days later, Musk tweeted to say: “Talked to ye today & expressed my concerns about his recent tweet, which I think he took to heart.”