2023/3/5, Sun.

 『創世記』は「はじめに神は天地を創造された」という言葉ではじまる。すなわち、天地創造以前の神については一言も触れていない。「天地創造以前に神はなにをしていたのか、(end92)という問いは意味をなさない」とは、アウグスティヌス(三五四~四三〇)も言っていることである(『告白』第一一巻第一三章)。なぜなら、時間は天地創造とともに始まったのであるから、「以前」も「以後」もすべて天地創造以後において意味のあることがらだからである、と。
 このことは、いちおうアウグスティヌスの言うとおりだとしておこう。しかし、とにかく天地創造以前の神への言及がないことの意味はなんであろうか。それは、イスラエル人の神が、つねに世界との相関関係のうちで語られるということである。世界のないところで唯一独存する神というものは考えられていない。彼らの神は、パルメニデスの存在のように不変不動の永遠性のうちで微動だにしない絶対者ではないのである。イスラエルの神は他者を呼び求める神なのである。
 こうして、この神は言葉によって「世界」を無から呼び出した。このことの意味はなんであろうか。
 まず、この神は他者を呼び迎えるというしかたで、自己充足から脱出する神である。「他者を呼び迎えること」とは愛であるから、この神は本質的に「愛」なのである。愛は絶対的に他者を必要とする。だから、この神は「無から」でさえ他者を創造するほど徹底的に愛なのである。モーセシナイ山で神の名をたずねたとき、神の自己啓示として語られた「私はあなたたちと共にあろうとする者である」(『出エジプト記』三の一四)という言葉は、この神の(end93)本質をあらわしている。
 第二に、神は「言葉」を発して世界を創造した。バビロニアギリシアの神話におけるように、原初の混沌から分裂と結合によって世界が生成するという物語とは、この「言葉による創造」ははなはだしく異なっている。このことの意味はなにか。言葉は本来応答する者を期待して発せられるものである。それゆえ、神は応答する者を期待して世界を創造したのである。しかし、人間以外の自然的な諸存在者は厳密な意味で「応答するもの」とは言われえないだろう。それだから、言葉を語る人間が、世界を代表して神に応答する者として、世界創造の意味を担っているのである。
 後に、二〇世紀になって、ハイデガー(一八八九~一九七六)が、「人間の使命は、存在の声を聞きとり、それを言葉によって歌うことである」と言ったとき、この思想のはるかな淵源が、このヘブライの神への応答にあった、という解釈も存在するのである。
 いずれにしても、神はすべての自然物を創り終えた後、最後に人間を創り、「地に満ちて地を従わせよ、海の魚、空の鳥、地の上を這う生き物をすべて支配せよ」(『創世記』一の二八)と言ったのだが、その意味は、人間が全被造物の代表者であり、したがって、それらのものに責任を負いながら、神の呼びかけに応答する者である、という点にあるだろう。すなわち、人間は自然の一部分であると同時に、自然を超えてゆく者という二重の性格をもつのである。(end94)
 第三に、神が世界を「無から」創造したということの意味である。「無から」とは、世界には固有の質料がないということだ。ギリシアバビロニアの神話における原初の混沌のようなものにせよ、プラトンの場所(コーラー)にせよ、アリストテレスの第一質料(ヒュレー)にせよ、そこから万物が生成する不滅の根源的素材はなにもないということである。このことは、もちろん世界には本来固有の存在根拠がないということを意味しているが、同時に、神は世界から絶対的に断絶しており、世界を超越しており、世界内のいかなる存在者にも帰属しない、ということをも含意している。
 すなわち、神に対する世界とは、神に対する無なのである。それゆえ、私たちが存在(現代哲学の言い方では現象)と呼ぶものが、時間・空間・形象に制約された世界内の存在者としてしか了解されえないとすれば、神は「存在」ではなく、「存在のかなた」でなければならない、ということにほかならない。
 (岩田靖夫『ヨーロッパ思想入門』(岩波ジュニア新書、二〇〇三年)、92~95)




  • 一年前の日記から。ニュース。

(……)新聞一面、きのうの報道を追ってロシア軍がウクライナ東南部の欧州最大級の原発を攻撃したという記事が出ていた。ザポリージャという発電所だ。ロシアが制圧したとあったので、その気になれば稼働を停めることは容易なはず。ちょうどそのときテレビに映った福島大学ウクライナ人研究者によれば、ウクライナの電力の六五パーセントは原子力発電によるもので、この原発はそのうち四〇パーセントをになっているという。だからぜんたいでいうと二六パーセントくらいということか。ロシアはチェルノブイリも制圧している。停戦交渉はおおきな進展はないものの、「人道回廊」といったか、民間人が退避できるように非戦闘地帯をもうけることでは合意したと。プーチンは、ウクライナ大統領は民間人の避難をゆるさず、「人間の盾」として利用していると言ったらしく、マジで死ねよこいつとおもった。恥知らずにもほどがある。原発への攻撃を受けて安保理が緊急会合をひらいて欧米諸国はとうぜん非難をくりかえすわけだが、ロシアのネベンジャ大使は、原発に火をつけたのはウクライナ側である、西側の報道は虚偽だということを言ったらしく、どうしようもない。じぶんにとって都合のわるいことをとにかくぜんぶ嘘だといっておけばともあれ押しとおる、という世界をつくってしまったドナルド・トランプの罪はおおきい。もっとも、たぶんかれが出てこなくてもおそかれはやかれそういうふうにはなっていたのだろうし、たとえば二次大戦のころなんかもそうだったのかもしれないが。橋本五郎は一一面あたりのコラムでさいきん文藝春秋から出たというアンゲラ・メルケルの伝記を紹介していた。それを読むとやはりメルケルはヨーロッパの良心の最たるものという印象を受ける。クリミア後だかプーチンとも三八回にわたる会談をかさね、かれの情や良心にはうったえず、たしかな事実をひとつずつ淡々と説明し突きつけるやりかたを取ったと。まあそれでもけっきょくプーチンは現状のようになってしまってはいるわけだけれど、かれはメルケルが犬に二回噛まれたことがあって恐怖心をもっているのにつけこんで、じぶんが飼っているラブラドールレトリーバーを首脳会談の部屋にいれさせて、犬がメルケルのまわりをうろうろするのをにやにやみていたのだという。ただのクソ野郎だが、メルケルはそれにも屈せず、のちほど、プーチンはああやって男らしさをみせつけようとした、そんなやりかただからロシアはいつまでたってもだめなんだ、みたいなことを側近にもらしたらしい。

書見へ。トーマス・マン高橋義孝訳『魔の山』(上巻)(新潮文庫、一九六九年/二〇〇五年改版)である。ベッドにころがってふくらはぎやら太ももやらもみながらすすめた。いま158くらいまで行っている。いまのところとくにめだっておもしろくもなく、どちらかといえば退屈ですらある。説話の進行としてはハンス・カストルプがダヴォスのサナトリウムにやってきて一夜明け、いちどめの朝食を食ったのちいとこのヨーアヒム・ツィームセンと散歩し、二度目の朝食(なんだかしらないがこの療養所は午前中のうちに二回食事をとるスケジュールになっているらしい)を取ってからまた散歩に出てもどってきて昼寝をしているあたりまで。できごとらしいできごとはなにも起こっていないし、物語としての進行感は鈍重きわまりない。上下巻で一五〇〇ページくらいある長い小説なのでまだまだ地ならし、舞台や人物をすこしずつ開陳していく下準備の段階という印象。それにしても文章や文体としてなにかきわだった質感があるわけでもなし、書抜きをしようとおもう箇所もないし、退屈といわざるをえないが、この退屈さこそ小説、長篇小説だな、というかんじもおぼえないでもない。このアルプスの高所にあるサナトリウムでは時間のながれが「下界」とはちがっており、ここの連中にとっては三週間なんてのは一日だよ、といとこツィームセンは(20~21で)述べていたが、その間延びした時のながれのおそさと説話の進行の遅々たる平板さが様相としてかさなりあっているとはいえるのかもしれない。しかしそんなことをいってもおもしろくないし、あまりたしかな感触でもない。上下のテーマならびに空間と時間というテーマは冒頭からはじまっておりおりに言及されていて、ハンス・カストルプがあたまが冴えたといってわずかに考察をしたりもしており、ほとんど読者にたいする目配せのようにあからさまともみえるし、そこをひろってなんらかの読み解きをしたてることもできるのかもしれないけれど、じぶんはとくにそういうことをやりたいわけではない。退屈ではあるのだが、朝食時の食堂でみかけるひとりひとりの人物に、ヨーグルトばかりを食べつづけているとか、それぞれ特徴を付しているあたりは、こういうのかんがえるのたいへんだろうなあとかんぜんに他人事じみた素朴な感想をおもってしまったし、いちどめの散歩で遭遇するセテムブリーニというイタリア人の似非文学者みたいなやからもペラペラペラペラ軽薄にしゃべりつづけて、まあキャラクターとして立っているとはいえる。一九〇六年にノーベル文学賞をとったらしいカルドゥッチというイタリア詩人の知己(自称弟子)でかれへの追悼文をドイツの新聞にも載せたという設定で、だからほんにんも詩人なのだろうし、すくなくとも文学者だといわれているのだが、これがいかにも古き良き時代の、と言ってよいのかわからないが、黴の生えきって化石化した文学者像みたいなやつで、あかるく饒舌ではあるけれどひたすら芝居がかっており、二〇二二年の世俗的平民として生きるこちらの目からみるとからまわりの感がつよく、じっさいこんなやつおらんでしょとおもうのだけれど、どうなのだろう、二〇世紀前半やそれいぜんには現実にこういうようなしゃべりかたをするにんげんがたまにいたのだろうか? あるいはいまでもいるのだろうか? それともこれも戯画化されたひとつのモデルなのだろうか? このひとのはなし、そしてカストルプとかわされる会話もまあおおむね退屈なのだけれど、136の一節だけはちょっとだけおもしろかった。おもしろいというか、ちょっと笑ってしまった。とくに、「彼の服装の微妙な象徴性にご注目ください」なんていういいかた。

 「クロコフスキーめ」とセテムブリーニは叫んだ。「ああやってぶらぶらしていますが、あいつはサナトリウムのご婦人連の秘密をみんな握っているんですよ。彼の服装の微妙な象徴性にご注目ください。彼があんな黒っぽい服装をしているのは、彼の最も得意とする専門分野が夜の世界であることを暗示するためなのです。あいつの頭の中には、たったひとつの考えしかない、しかもそのひとつがなんと不潔なことか。(……)」
 (トーマス・マン高橋義孝訳『魔の山』(上巻)(新潮文庫、一九六九年/二〇〇五年改版)、136)

  • ニュースつづき。
  • Robert Reich, “Putinism is breeding in the heart of the Republican party”(2022/3/1, Tue.; 11:08 GMT)(https://www.theguardian.com/commentisfree/2022/mar/01/republican-party-trump-putin(https://www.theguardian.com/commentisfree/2022/mar/01/republican-party-trump-putin))。プーチン的なありかたやかんがえかたはアメリカの共和党内にも勢力をもっているというはなし。内容としてそんなに目を引くところはない。いうまでもなくドナルド・トランププーチンと親和性をもっており、二〇一六年の大統領選でも二〇年のそれでもロシアはトランプが勝つよう秘密裏に活動していたと。共和党内には、二一年一月六日の国会議事堂襲撃事件を調査するための議会特別委員会に参加した同党議員(ワイオミング州選出のLiz Cheneyとイリノイ州選出のAdam Kinzinger)を非難する連中もいるし、Tom Cottonという上院議員はテレビ番組で、ウクライナへの侵攻(プーチンじしんのことばでいう「特別軍事作戦」)を命じたプーチンを”smart”、”savvy”と評したトランプを批判することを拒否した。そういったことをふまえて、〈Make no mistake: Putin’s authoritarian neo-fascism has rooted itself in America.〉といわれている。したの情報がすこし興味深かった。二〇一九年にゼレンスキーが、トランプから二〇年の大統領選でのrigging(不正操作)をたすけるよう要求され、議会がウクライナを支援するために割り当てていた資金をとりあげるぞと脅しをかけられながらも拒絶したということが書かれている。

Defending democracy and standing up against authoritarian neo-fascism requires courage. In 2019, the Ukrainian president, Volodymyr Zelenskiy, refused Trump’s demand for help in rigging the 2020 election in the United States, even after Trump threatened to withhold money Congress had appropriated to help Ukraine resist Russian expansion.

(……)Last Tuesday, [Tucker] Carlson, who is reportedly paid $10m (£7.5m) a year for his piercing insights and analysis, told Americans that they had been brainwashed into thinking Putin was a baddie. Think critically, Carlson instructed his depressingly large audience. Ask yourself this, he posited: “Has Putin ever called me a racist? Has he threatened to get me fired for disagreeing with him? … Is he making fentanyl? Is he trying to snuff out Christianity? Does he eat dogs? These are fair questions – and the answer to all of them is no.” To be clear: these are inane questions and the answer to all of them is: “Turn off Fox News before the rest of your brain turns to mush.”

     *

There is also a whiff of antisemitism in the right’s support for Putin. On Sunday, for example, Wendy Rogers, a Republican state senator in Arizona, tweeted about the Ukrainian president: “[Volodymyr] Zelensky is a globalist puppet for Soros and the Clintons.” “Globalist” and “Soros” are well-established dog whistles, of course. (Zelenskiy is Jewish.)

Rogers’ comments on Zelenskiy came shortly after she attended a white nationalist convention in Florida, where she praised Nick Fuentes, its Holocaust-revisionist organiser, and proposed hanging “traitors” from “a newly built set of gallows”. A very normal thing for a politician to say! Fuentes, meanwhile, urged the crowd to applaud Russia and had them chanting: “Putin! Putin!”

     *

While I have absolutely nothing good to say about Putin (or his biceps), we should condemn him without lapsing into simplistic narratives of good versus evil. The right may be full of unthinking Putin fanboys, but there are also a number of liberals who seem to think that Putin is uniquely bad. They are quick to rationalise invasions and occupations when a western country or a western ally is the aggressor. Many liberals care deeply about Ukrainians, as we all should, but aren’t quite so bothered about Yemenis, Syrians or Palestinians. The west should condemn Putin – but it could also do with thinking more deeply about its own actions.

 【AFP=時事】セルビアの首都ベオグラードで4日、ロシアのウクライナ侵攻への支持を表明するデモが行われ、約1000人が参加した。北大西洋条約機構NATO)に抗議する一方、ロシアのウラジーミル・プーチン(Vladmir Putin)大統領をたたえた。
 参加者は「セルビア人とロシア人は永遠の同志」とシュプレヒコールを上げ、発煙筒をたいてロシア国旗を振りながら市中心部を行進した。
 警備員の男性(22)は「ウクライナはネオナチ(Neo-Nazi)から解放されつつある。われわれの同志ロシア人がウクライナを解放している。願わくば世界も」とAFPに語った。
 セルビアとロシアは何世紀にもわたって友好関係を築いており、共にスラブ民族正教会を信仰し、政治的な結び付きも深い。欧州の大半の国がロシアのウクライナ侵攻を非難する中、セルビアでは国民の多くがロシアを支持し、国営メディアもプーチン氏を擁護している。
 アレクサンダル・ブチッチ(Aleksandar Vucic)大統領は国連総会(UN General Assembly)ではロシアのウクライナ侵攻を非難したが国内では曖昧な態度を取っている。
 1998年、セルビアコソボ自治州で独立を目指すアルバニア系住民とセルビア人の対立が激化。1999年にはNATOセルビア全域に空爆を実施した。コソボは2008年に独立を宣言した。
 ロシアはセルビアの石油・天然ガス産業を事実上牛耳っており、国連では常任理事国の拒否権を発動してコソボの加盟を妨げている。【翻訳編集】 AFPBB News

  • (……)さんのブログより。

 一九二七年から翌年にかけての冬も、おそらくムージルは、テーブルクロスのかかった執筆机の周囲をタバコを吸いながら一日中歩きまわっていたはずだ。そのころセラピーを受けていなければ、第一巻を完成させることはできなかっただろう、とのちに告白している。彼が受けたのは時間のかかる精神分析ではなく、より実際的な、フーゴルカーチの短期療法だった。このハンガリー出身の個人心理学者があたえた、《主導イメージ》をさがすようにという助言は、はからずもムージルの自己注釈への傾向を強め、長編執筆をおおいに促進したが、それによって執筆が阻害される危険も同時にあった。ムージルの執筆障害は、古典的な《作家のスランプ》などではなかった。彼の問題は、思考を言語化する多くの可能性のなかから、たったひとつを最終的に選ぶということができない点にあった。一度できあがったものを放置しておけず、経済状態がどんどん悪化していくというのに、同じ章を二〇回も書き直してしまうというふるまいが、この長編小説を、言語的・思想的にたいへん複雑なものにしてしまった。作品の幕開けを告げる第一章「注目すべきことにここからは何も生じない」も、このような執筆障害の産物のひとつである。この章は、書かれたことをみずから絶えず取り消しては先に進む点において、文学による自己省察の典型とみなされ、近代的な語りの危機を示すものと解釈されている。一九二九年一月五日、作品の清書を開始するにあたって、作家は次のように書いた。
 「第一章を新しくする。満足できるアイディアが三日前に浮かび、昨日書きはじめ、冒頭部分はうまくいった。ここで執筆障害がはじまる。それはいったいどんなふうにはじまったのか。頭のなかには、第一章の終結部分と主要部分についても、すでに満足できるものがあった。ぼくは冒頭部分を書きついだが、その形式にあまり芸がない感じがして消した。そこで、まだ使っていなかった素材、大都市の騒音と速度の描写をここに挿入しようと思いつく。この描写と終結部分をどのように橋渡しすべきか、なんとなくイメージはあるが、それはぼんやりと定まらない形でしかない。執筆障害がはじまるお定まりの状況がこれでできあがりだ。ふたつの固定された柱があるのだが、そのあいだの移行部分がなかなかうまくいかない。ぼくは移行部分を挿入したり、その一部だけ採用したかと思えば、また削り、別のやり方をしてみる。どこか気に入らない。全体の脈絡を見失い、復文の主文に対する位置関係といった文体の細部にこだわる。意気消沈。こんな状態が続くようでは清書に一年はかかるだろう[…]。夕方になった。原稿に手をくわえるのをやめて読む。明かりを消そうと思った瞬間、これまでもよくあったように、どうすればいいのか思いつきメモする。移行部分について考えていたことを、あらかじめメモしておかなかったからうまくいかなかったのだとくやまれる。とはいえメモをしていたらしていたで、それが妨げになっただろうが。ぼくはぐっすりと眠った。しかし目がさめて、すべて順調だと自分に言い聞かせるまえに、さっそく苦痛が襲ってくる。頭部に感じる身体的なものだが、正確には苦痛とは違う。「知的絶望」という表現が一番ぴったりくるように思える。それは無力感であり、執筆に取りかからなければならないことに対する恐ろしい嫌悪感(ひどく疲労しているときに感じるような)が混じっている」(…)。
(オリヴァー・プフォールマン/早坂七緒、高橋 完治、渡辺幸子、満留伸一郎・訳『ローベルト・ムージル 可能性感覚の軌跡』)

  • 食事中から食後にかけて以下の三篇を読んだ。

Russia is deploying the most experienced units of the mercenary Wagner group and its army in an attempt to seize the besieged eastern city of Bakhmut, the Ukrainian military has said. The commander of Ukraine’s ground forces, Oleksandr Syrskyi, was pictured visiting the frontline city on Friday for briefings with local commanders on how to boost defence capacity.

The boss of the Wagner mercenary group said his fighters have “practically encircled” Bakhmut. Only one road remains under Ukrainian control, Yevgeny Prigozhin added in a video posted online in which he called on the Ukrainian president, Volodymyr Zelenskiy, to abandon the city. His claims could not be verified.

The situation in Bakhmut appeared to be extremely precarious amid evidence that Ukraine was preparing extensive new defensive positions, including around the nearby city of Kramatorsk. Video posted online showed the blowing up of a railway bridge over the Bakhmutka River to the east of the city, while other footage purported to show damage to a small road bridge.

     *

Serbia has denied that it has supplied weapons to Ukraine, its foreign minister said. Following Moscow’s demand on Thursday to know whether Serbia provided thousands of rockets to Ukraine in its fight against Russia, Ivica Dačić said that zero weapons have been exported from the country to any parties involved in the “conflict”.

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Ukraine’s defence minister, Oleksii Reznikov, has said he is confident that western countries will supply fighter jets to Kyiv, and that he is optimistic that the war will end this year. In an interview with the German newspaper Bild, Reznikov said Ukraine expects to receive “two to three different types” of fighter jets and that he believed it would be “done through a kind of coalition again”, referring to the “tank coalition” of Leopard 2 tanks from western allies.

The EU’s foreign policy chief said he saw a “small improvement” in diplomacy with Russia after a meeting of G20 foreign ministers in Delhi. Josep Borrell said Russia’s foreign minister, Sergei Lavrov, remained in the room when western countries criticised Russia – unlike at the last G20 foreign ministers’ meeting in Bali last year, when he stormed out.

Mykhailo Podolyak, a Ukrainian presidential adviser, has again issued a denial that Ukraine has mounted any attacks within Russian territory. Vladimir Putin said on Thursday that Russia had been hit by a “terrorist attack” in Bryansk and vowed to crush what he said was a Ukrainian sabotage group that had fired at civilians. Ukraine accused Russia of staging a false “provocation”. The Kremlin said on Friday it would take measures to prevent a repeat of what it described as a border incursion.

Comments by Russia’s foreign minister, Sergei Lavrov, were met with laughter at an international conference in India, when he said that the Ukraine war had been “launched against” his home country.

Speaking at the Raisina Dialogue, a politics and economics event in Delhi, Lavrov also claimed that Russia was trying to stop the war.

“The war, which we are trying to stop, which was launched against us using Ukrainian people, of course, influenced the policy of Russia, including energy policy,” he said, briefly stumbling over his words as people in the audience laughed.

     *

The audience did not laugh at everything Lavrov had to say, however. Asked about the “double standard” of western military intervention, the audience applauded his response.

“Have you been interested in these years in what is going on in Iraq, what is going on in Afghanistan? Have you been asking the United States and Nato whether they are certain of what they are doing?” he asked.

     *

India, which has longstanding economic and military links to Russia, has remained neutral on the topic of the Ukraine war.

It has abstained from voting in UN resolutions condemning Russia’s invasion and has increased its imports of Russian oil after the introduction of western sanctions against Moscow.

Marjorie Taylor Greene, an influential far-right Republican in Congress, has called for the US to stop aid to Ukraine, giving added voice to a grassroots revolt in the party that threatens bipartisan support for the war against Russia’s Vladimir Putin.

The Georgia congresswoman is a notorious provocateur who has made racist, antisemitic and Islamophobic statements and promoted bizarre conspiracy theories.

Yet she has emerged as a prominent voice in the House of Representatives after forging a bond with the speaker, Kevin McCarthy, who vowed that Republicans will not write a “blank cheque” for Ukraine.

Greene told the Guardian that Joe Biden is “putting the entire world at risk of world war three”, a view widely held at the Conservative Political Action Conference (CPAC), America’s biggest annual gathering of conservatives.

     *

A year after Russia’s unprovoked invasion, the US has provided four rounds of aid to Ukraine, totaling about $113bn, with some of the money going toward replenishment of US military equipment that was sent to the frontlines.

The two leading contenders for the Republican presidential nomination in 2024, former president Donald Trump and the Florida governor, Ron DeSantis, have both expressed scepticism about the Ukraine cause. Opinion polls also show an erosion of public support.

The conflict was mostly absent from speeches on the main stage at CPAC, once the home of cold warrior Ronald Reagan but now a stronghold for the isolationist “America first” wing of the Republican party. Nikki Haley, a former ambassador to the UN who is running for president, and Mike Pompeo, an ex-secretary of state weighing his own run, gave the subject a wide berth in their addresses.

     *

Interviews with more than a dozen CPAC attendees elicited similar views and, in some cases, sympathy for Putin. Theresa McManus, wearing a cowboy hat and jacket, and a riding skirt patterned with words from the US constitution, said forcefully: “I like Putin. I think he’s got balls and he’s taking care of his country.”

Repeating a Kremlin talking point that people in the Donbas region want to be liberated from Ukraine, the 67-year-old horse trainer from rural Virginia continued: “No, we shouldn’t give them any more money. No, we should not be involved with them. They should not be part of Nato.”

Paul Brintley, 50, ambassador for the North Carolina Faith & Freedom Coalition, described Putin as “not so much a dictator” and said of Ukraine: “I don’t think we should be the police of the world. I don’t think we should bankroll them. We’ve done enough.”

Some at CPAC hew to conspiracy theories about the war. Jason Jisa, 41, from Dallas, Texas, said: “Show me where you’re sending the money. Show me war footage. Go look at all the previous wars: Afghanistan, Iraq, we’re flooded. We’re shown video of it every single day. You don’t see hardly any video come from Ukraine. Why? Where are the camera crews?”

Jisa, owner of the “USA Trump Store”, added: “Where’s the money going? Why are we on the hook for them? Why, while we have veterans in the street, we have homeless people all over the place, we have inflation going crazy, are we going to send billions and billions and billions of dollars?”

     *

But former vice-president Mike Pence, widely expected to launch a bid for the White House in the coming months, has called for Washington to intensify support for Ukraine and insisted that “there can be no room in the leadership of the Republican Party for apologists for Putin”. This stance is shared by the Senate minority leader, Mitch McConnell, and others in the party establishment.

Neither Pence nor McConnell came to CPAC, which some critics argue is losing relevance as it fails to shake off Trump. Hylton Phillips-Page, 67, a retired investment manager from Rehoboth Beach, Delaware, described Putin as a “thug” but admitted “mixed feelings” over continued aid for Ukraine.

“I don’t think our support can forever be at the expense of our own country. I would be quite OK with our Congress saying: until you finish the wall and protect our own border, you shouldn’t be protecting somebody else’s border. I’m not opposed to supporting them but I would like us to do some stuff at home.”

Antwon Williams, 40, from Columbia, South Carolina, who was selling Trump merchandise, said: “America needs to worry about the troops that we have, our veterans that need our help here in America, instead of writing an unlimited cheque to these people out here,” he said.

“No offence to them [Ukrainians]. It’s horrible what they’re going through. No one wants to see anyone hurting and dying out there. But we have our own veterans that fought for America and our freedom that is hurting, that is homeless, that is needing help, who have mental issues and who are starving right here in America.”

  • めざめて時刻を確認したのは七時四〇分すぎ。からだの感触はよろしい。肌がやわらかい。しばらく布団のしたで胸をさすったり、腰をさすったり、深呼吸したり。右の鼻の穴が詰まっている。深呼吸するようになってからわかったが、じぶんは右よりも左のほうが鼻のとおりがよい。詰まっていないときでも右のほうは空気の通路がせまい感じがする。片鼻ずつで呼吸してみると容易にわかる。鼻の奥のかたちがなにかしらそうなっているようだ。八時にはやくも起き上がると携帯を持ち、さくばん父親からSMSが来ていたので、布団のうえであぐらをかいた姿勢のままそれに返信した。内容は要するに、体調はだいじょうぶか、母親がさみしがっているからたまには帰ってこい、というもの。体調はかなり良くなっているし近いうちまた帰ると送っておいた。もともと金曜日に医者に行ったついでに帰ろうかとおもっていたのだけれど、翌土曜日、つまりきのうに映画を見に行く予定があったので、実家から出向くというのも面倒くさいとやはり帰らないことにしたのだった。水曜日の勤務後に帰って一泊しようかなという気になっている。
  • 水を飲んで腕振り体操をしばらく。布団のしたへもどる。エアコンもつける。まだ朝方は肌寒い。脚をほぐしつつ一年前の日記を読んだり、(……)さんのブログをちょっとだけ読んだり。九時半くらいに離床した。布団をたたむ。天気は曇りだったが、正午くらいから薄陽の色もみえてきた。午後一時四〇分現在、レースのカーテンに淡い色が映ってはいるものの、空に青さは見えず、まろやかで半端な天気。きのうは一時前に出なければならなかったので、洗濯物をはやめに入れねばならず乾ききらなかったが、円型ハンガーだけさきほどシャワー前にあらためて出しておいた。湯浴みにつかったバスタオルも。
  • 離床後はまた体操して、それから瞑想も。二〇分弱。そうして食事はれいによって温野菜と、唐揚げをおかずに米。そしてバナナ、ヨーグルト。食事中から食後にかけてはGuardianの記事を読んだのだが、目が疲れているというか、疲れているというよりは花粉にやられているような感じでひりつき、じっさい顔を洗うさいに鏡でみたとき眼球は両方ともすこし赤くなっていた。それでときどきまぶたを開閉しまくったり、閉ざしたまま眼球を各方面にうごかしたりして緩和をはかった。読むあいだは足首をまわしたり手指を伸ばしたり。Woolfの英文三つも読んでおき、正午にいたるのを待たず寝床へ。書見。松井竜五『南方熊楠 複眼の学問構想』(慶應義塾大学出版会、二〇一六年)。中国の本草学の系譜についてや、南方熊楠が『ネイチャー』などに寄稿した英文記事において、西欧への対抗心から、東アジアの本草学・博物学的伝統のなかに科学的な目でみて評価できるぶぶんがあると紹介することを主眼としていた、というはなしなど。
  • 一二時四〇分ごろまで。それからまた腕を振り、そうして湯浴み。出てくると髪を乾かして、ここまで記せば一時四八分。
  • その後手帳をもとにして二月二二日水曜日の往路をすこしだけ記述し、終いとして投稿。つづく二三日も投稿。あとは二七日まではぜんぶ現状のままで終いとするつもりなのだが、投稿作業もめんどうくさいしとりあえずそこまでで。二七日の月曜日はすこしだけ書き足すつもり。あとは三月二日水曜日の勤務中のこと。木曜日は夜にスーパーに出たときのことを書けていないがこれはもういいかなという気分。そしておととい金曜ときのう土曜は連日でかけたし、とりわけきのうは映画をみてひととも会ったので書く情報量は突出して膨大になるが、しかしそれも気張らず無理せず書けるだけのことをちょっとずつ書ければよい。さきほど打鍵をはじめたとき、やはりすぐさま上腕のあたりに鈍さがまとわりつくというか、まえにくらべれば相当ちいさいけれどどことなくいやな感じになってきて、くわえて胃液感も出てきたので、どういう回路をつうじてなのか打鍵をするとどうしても胃に来る。二七日の月曜日(賞味期限切れのうどんを食った日)とか、おとといの金曜日とかは一時的に胃がすこしひりつくようになっており、腹がちょっとしくしくするというかそんな感じで、だからからだもおちつかず緊張がややあって、おとといなんか行きの電車内ですこし苦しかったのだけれど、これも二日ともぜんじつが休みでたくさん文を書いたのでそうなったのだろう。
  • 日記を二日分投稿してうえまで書いたあとはいったんまた寝床に逃げて、(……)さんのブログを読んだ。最新記事からかなり遅れている。二食目を食ったのが四時半くらいからか。温野菜。豆腐もウインナーもないので、キャベツ、白菜、大根とかんぜんに野菜だけ。このあと買い出しに行ってくるつもり。スチームケースに入れるものも、いつもおなじではなくてもうすこし菜っ葉とかトマトとか探ってみてもよいかもしれない。クックパッドでもみればレシピがたくさんあるのだろうし。そのほか納豆ご飯だが、一杯食べてももうすこし食べたい気がしたので、わずかにのこっていた米をべつの椀に入れ、このあいだ買っておいた「ふじっ子」を乗せて食した。食後はしばらく腹がこなれるのを待ち、ウェブをみたり、ひさしぶりに机椅子の足もとをテープで掃除したり。そのあとそろそろ家計というかひと月の収支の正確なところを計算しておくかという気になり、いま毎月固定でかかっている料金のたぐいから手帳に記していき、さらに数か月前までつけていたひと月ごとの支出記録を参照しながら食費その他にかかる金を算出し、そうして週三日いちにち2コマではたらいたばあいの月給もはじきだしたところがふつうに、余裕で足りない。年金を申請して免除してもらうことができ、なおかつ削れるものを削ったとしても余裕で足りず、週四日でがんばればかつかつで行けるか行けないか、というくらいなので、そうするしかないか? 週三いじょうはたらきたくないのだが。いちにちはたらいたらいちにち休むというのがにんげんとしてバランスのよい生活のはずで(もちろんじぶんは週休五日制をつねに追い求めているが)、週四日だとかならずどこかに二日連続ではたらく箇所が生まれてしまう。くわえて急遽出勤とかになったら週五でまいにちはたらく可能性すらなくもなく、そうなったら終わったなという感じだが、いまの職場で週四日がんばるのがいちばん手っ取り早い方策ではあるだろう(そうしたとしても赤字になるか黒字になるかの瀬戸際というところだが)。月水金土でやらせてもらうか。それか週一日だけは近場の学習塾ではたらかせてもらうかだが、果たして一日分の給料が(……)のほうより高くなるかというと、これでももう長年やっていてたしょう月給はあがっているから(それでも薄給でいいようにつかわれているが)、はたらきはじめてすぐそんなに稼げるかというとうたがわしい気もする。とはいえ移動の時間は格段にすくないわけだから、そのぶんおおくはたらけはする。そうかんがえると近間の塾でプラスアルファをがんばるのもよいかもしれない。ちょうどこのあいだ最寄り駅ちかくにある「(……)」というなまえの塾のチラシがはいっていて、個人塾だとあって、そういうこじんまりしたところでやるのもおもしろいかもしれないなあとおもったのだが、ただ個人塾だと給料はむしろ期待できない気がするが。
  • 金の算用をしたあとはふたたびやすらぎの聖地たる布団のうえに逃げて(……)さんのブログを読み、とちゅうで松井竜五『南方熊楠 複眼の学問構想』に移行。第一章のさいごまで。『和漢三才図会』を発端として東アジアの本草学・博物学の諸書におさないころから触れて教養の基盤とした南方熊楠は、後年「十二支考」を書いたり、また晩年までつづけていた『Notes and Queries』(一八四九年、William John Thomsという作家によって創設された英誌で、このThomsはfolkloreという単語の創始者であり、そうした俗説・俗伝のたぐいをあつめるためにつくられたらしい)への投稿のなかでもそれらの諸書を典拠としており、とりわけ『和漢三才図会』はなんども活用されていて、幼年時にはじめて出会ったこの百科事典を数十年後まで読みつづけ参照しつづけた点におどろくべき学問的関心の継続をみる、みたいなはなし。その点はまた同時代の知的潮流と照らし合わせたときに異質さがきわだってくる特徴で、つまり江戸・明治・大正というながれのなかで、とうぜん明治期いぜんに知的主潮だった中国や日本の知識は、西洋の「科学的」学術が輸入され普及されていくにつれて急速にメインの座をしりぞくことになったからで、たとえばとうじはすでに医学の分野では北里柴三郎野口英世のようなにんげんが西洋的方法をじぶんのものとしてノーベル賞級の功績をあげていたそのなかで、『十二支考』で南方熊楠が江戸期やそれいぜんの和漢の書籍を縦横無尽に駆使し引用をくりひろげてさまざまな説を紹介してみせるのに接したとうじの読者は、時代が数十年どころか数百年も逆流したかのような印象を受けたのではないかと。そうした南方熊楠の異質さを、博覧強記ではあるとしてもたんなるディレッタンティズム、時代遅れの衒学にすぎないとするのか、それとも西洋から流入した知的潮流にたいする独自の挑戦的態度として評価するのかという点は、かれが留学などをつうじて西洋の学問や社会とどのように対峙し、どのようにみずからの知をかたちづくっていったのかという問題を詳細に追ってから判断することになる、というところで第一章が終了。その後ここまで記して八時前。二七日をかたづけ、できれば水曜日もきょうじゅうにかたづけてしまいたいが行けるかどうか。その後の金曜ときのうの土曜は外出したので書くことがおおくなるはずで、しょうじきいまからめんどうくさく感じており、気概が起こらない。


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  • 日記読み: 2022/3/5, Sat.
  • 「ことば」: 1 - 3
  • 「読みかえし2」: 1259 - 1260