2022/9/18, Sun.

西脇順三郎訳『マラルメ詩集』(小沢書店/世界詩人選07、一九九六年)

●43~44(「施物」)(Aumône)
 この財布をとれ乞食よ、君は欺し取らなかった
 乳房を貪る老いた乳のみ子よ、一枚一枚の銭から
 君の弔 [とむらい] の鐘をしぼり出すために。

 この貴金属から何か奇異な巨大な罪をひき出せ
 僕等が腕一杯それを抱擁するような、
 それが体を曲げるほどそれを熱烈に称讃せよ

 これらの青楼は皆、香をたく教会だ
 晴れた青空を眠らせるタバコが壁の上で
 無言で祈禱をころがす時は、

 また強烈な阿片が薬屋を破壊する時は!(end43)
 衣裳と皮膚、君は繻子の肌を裂き
 幸福な唾液の中で安逸を飲み

 王侯のカフェーで朝を待ちたいか。
 裸の妖精とヴェールで飾られた天井のある、
 ガラス窓から乞食に一つの饗宴がなげられる。

 老いた神よ君が君の包装用ズックの衣の下で
 震えながら出て行く時夜明は黄金の酒の湖水
 君は誓う我が喉に星群あり! と。




 目を覚まして携帯をみると八時ごろ。昨夜からつづく雨降りの薄暗さである。カーテンの端をめくって空をみても、まぶたがなかなかしっかりとひらいてこない。胸をさすったりして過ごし、九時前に起き上がった。洗面所に行ったり水を飲んだりといつもの行動を取り、つけっぱなしで寝てしまったパソコンでNotionのきょうの記事をつくって、水を飲んでいるあいだにもう一年前の読みかえしをはじめた。それから寝床にうつってつづき。2021/9/18, Sat.に記されているニュース関連は以下。

(……)きょうは雨降りで窓外の景色が白くかすんでおり、空気は湿って薄暗い。新聞からはジャン=ピエール・フィリエみたいななまえの、フランスの中東史の大家だというひとのインタビューを読んだ。Jean-Pierre Filiuというひとだ。九一年からの三〇年を超大国アメリカが中東に介入したひとつの時代とみなし、それが終わったという認識でいると。湾岸戦争からはじまるわけだが、日本でかんがえると平成の道行きがほとんどそれとかさなっており、個人的にはじぶんは一九九〇年生まれなので、まさしく生まれたときからそういう世界、冷戦がいちおう終わってアメリカが唯一の超大国となり、世界の国々を民主化するのだという、前近代から近代にかけて海をわたっていったキリスト教宣教師たちの情熱的信念をおもわせる夜郎自大でもって中東地域に進出していった時代を生きてきたことになる。父親ブッシュからはじまってクリントンは外交音痴のくせに(とこのひとは言っていたのだが)積極的に介入し、オスロ合意をまとめはしたものの当初から賛否ありつつけっきょくその後は機能せずインティファーダを招くことになったし、二〇〇一年以降の息子ブッシュによる報復的ナショナリズムに鼓舞されたアフガニスタンイラクへの侵攻は周知のとおり、オバマもシリアが化学兵器をつかったときに毅然と対応できず腰砕けになって結果としてはISISの跋扈をゆるすことになり、ドナルド・トランプは撤退合意をまとめたけれど彼がかんがえていたのはむろんアメリカの都合だけで、撤退後にどうなるか、どういうとりきめにするかなど知ったことではなかったわけで、そうして九月一一日という象徴的な日付にこだわって撤退をいそいだバイデンはタリバン復権を防げなかった、とこうして概観してみるとここ三〇年のアメリカの中東政策は大失敗だったのではないか、という印象がやはりつよくなる。


     *


夕刊、一面に米国がアフガニスタンでおこなった空爆誤爆だとみとめたと。八月二六日にISISによるテロがあり、いちど報復の空爆をやって、そのつぎの二度目の無人機攻撃のことで(八月二九日に実行)、車両をつかったテロが計画されているという情報をつかんで八時間も対象の車を追ったあげくに攻撃に踏み切ったのだが、じっさいにはその車を運転していたひとはISISと関連のある人間ではなく、米国内に拠点をおく慈善組織に勤めている男性だったと。子ども七人をふくむ一〇人が巻きこまれて死亡。当初米政府は必要な攻撃だったと表明していたが、メディアの報道を受けて誤りをみとめるにいたったようだ。この件はたしかNew York Timesがまず報道したのではなかったか。New York Timesドナルド・トランプ政権期にも一件、あるいはそれいじょう、米軍の誤爆をあかるみに出していたおぼえがある。たしか被害者側への補償につながったのではなかったか? ぜんぜんこまかいことをおぼえていないが。

 先日、八月二八日に、「2021/8/28, Sat.は米軍のアフガニスタンからの撤退および市民らの退避輸送作戦中に起こった空港近くでのテロの続報を記している。夕刊を見て、「米軍が東部ナンガルハル州で無人機をつかってISISを報復攻撃したという。攻撃時、戦闘員は移動中だったとかで、さらなるテロのために準備をしていたのかもしれないとのこと」と書いているが、たしかこれはじっさいにはISIS戦闘員ではなくて、関係のない人間を誤って殺してしまったということがのちほどあきらかになっていたはずだ」と記したが、うえの情報によればこれは誤りで、この翌日の攻撃が無関係のにんげんにたいする誤爆だったのだ。
 前日にワクチンを打ったので、「LINEで「(……)」の三人に「お前ら!」と呼びかけ、「ワクチン受けてきたぞ。腕が痛え。これで俺もマイクロチップ搭載だ! 5G通信で政府のおもちゃと化すぜ」とふざけたのち、「だがそんなことより、これを聞け。めちゃくちゃええで」と言って竹内まりや "五線紙"のYouTube音源を貼っておいた」とも。したの描写はなかなかよかった。

五時まできょうのことを書いて上階へ。アイロン掛け。窓外の色は昼間とほとんど変わりなく、まだ暮れきっていないから薄暗いとはいえ昼のなごりがうかがわれて物々のかたちははっきりしており、雨もいまはやんでいるようで霞みに乱されていない白さのなかに、赤味と言っては誇張にすぎるもののなんらかの、褪せたような色味が混ざっているふうに映って、それが唯一、暮れ方の時をおもわせる。風はなく空気は停滞しているようで、かずかずの緑色もしずかにとまっている。手元の衣服にアイロンをかけ、海面をそのままこおりつかせて固定したようなこまかな筋の波打ちをできるだけ平らにならしつづける。アイロンをうごかしていると蒸し暑いので、とちゅうで扇風機をつけた。それからしばらくしてまた目をあげれば、川のほうでにわかに霧が生じていて、ほかは変わらずしずまっているのにそのぼやけた白さだけゆっくりながらも推移していくので、なんで急に発生したのか? 霧ではなくて煙だろうか、そのあたりの家でなにか燃やしているのだろうかとおもったが、樹々や家並みを越えまたそのあいだをとおって鈍重な巨大生物のようにすこしずつながれていく乳白色は、煙にしてはすぐに散らずむしろ移動した先で宙を濁らせ見えなくしているので、霧が生まれたのではなくて風が生じたのではないか、それでもともと川面のまわりに溜まっていたのがながされたのではないか、とすればまた雨が降りだしたのだろうか、とたちあがってベランダをあけると、伸ばした手のひらにたしかにぽつぽつ触れるものがあった。そのころには先ほど大気にふくまれていたわずかばかりの暮れの色味もすでに去り、あたりはいっそう沈んで気づけば白濁の気味も諸所に増しており、五時四五分を越えたころにはかすかに青さをおぼえさせるほどのたそがれとなって、暗んだ景色の先で山も上辺を白く塗られてかきまぜられて、ところどころで境界線をうしなっていた。

 二〇一四年のほうもたいした文ではないものを一日分読み、それから英語長文ハイパートレーニング3ののこっていた二課を読んでしまった。さいごのUnit 12は脳と精神の関係について書いた文章で、デカルトのれいのことばなんかも引かれているし、こりゃたいていの高校生が読むにはかなりむずかしいだろうなという印象。英語長文のあとはモーリス・ブランショ/粟津則雄・出口裕弘訳『文学空間』(現代思潮社、一九八六年/新装第二刷)もいくらか。いいかげん本もどんどん読んでいかなければならない。さいきんは停滞しすぎている。一一時前に離床して、椅子について瞑想。三〇分弱。鳩尾をよくさすっておくとやはりそれだけでからだが楽だ。雨音は窓のほうからだけではなく、階段にあたるはずの正面の壁の向こうや天井のほうからもいくらか聞こえ、焚き火にくべられた木片めいてパチパチとはじける音がそれぞれの間をはさみながらそれぞれの場所で移動することなくときどき発生し、そのあいまの空間はやわらかなスポンジで埋められつながれたかのような、その他の物音を吸収してしまうようななにかおだやかなしずけさがひろがっており、上階の部屋にいるのかいないのかひとの気配もつたわってこないし、窓外を走る車の音も、路上にかなり水が溜まって飛沫をおおきく散らしているような響きではあるものの、晴れの日よりもよほどちいさく距離を置いてあるように聞こえて、それもやはり窓から道までを埋め尽くしている降る雨の層が緩衝材となって音をころしてしまうのだろうか。きのうの夜に(……)駅で降り出したなかをあるきながら風がやや盛っていたので、台風でも来ているのか、そのかなりはやめの先触れかとおもったが、天気予報を見たところやはりそうらしい。瞑想を終えると一一時半ごろだったが、すぐには食事にうつらず、きのうひらいていたウクライナ関連のGuardianの記事を読んだ。Simon Tisdall, “What happens if Putin goes nuclear in Ukraine? Biden has a choice to make”(2022/9/17, Sat.)(https://www.theguardian.com/world/commentisfree/2022/sep/17/putin-nuclear-ukraine-biden-russian-forces-nato-kremlin)。それから立って食前にクソを垂れ、サラダをつくりにはいる。主食はきょうもレトルトのキーマカレーレトルトカレーばかり食っている。食事中も英文記事を読み、これ以後でSviatlana Tsikhanouskaya, “Putin’s ally stole my democratic victory in Belarus. Now the west must help us fight back”(2022/9/17, Sat.)(https://www.theguardian.com/commentisfree/2022/sep/17/election-belarus-russia-lukashenko-vladimir-putin-sviatlana-tsikhanouskaya)とDan Sabbagh, “Ukraine depends on morale and Russia on mercenaries. It could decide the war”(2022/9/17, Sat.)(https://www.theguardian.com/world/2022/sep/17/ukraine-depends-on-morale-and-russia-on-mercenaries-it-could-decide-the-war)のふたつ。
 食後は皿を即座に洗って、しばらくうえのDan Sabbaghの文を読んだり「読みかえし」ノートをこそこそ音読したり。太平天国の乱についてのニューズウィーク日本版の記事など。中国史もおもしろそう。その後歯を磨いた。洗濯をどうしようかなとおもったのだが、天気予報を調べてみるとあしたも雨なので、あした晴れればあしたやるところだがきょうもあしたもどうせ雨ならおなじだし、きのう着たワイシャツなどはやく洗いたいしもうやってしまうことにした。それで洗濯機をはたらかせながらきょうのことを書き出して、ここまで記して二時過ぎ。洗濯もさきほど終わったところ。またすこしまえに稲光が室内をひらめくとともにそこそこおおきな雷の落音がひびいたが、ここに来ていらいあれくらいちかい雷を聞いたのははじめてのことかもしれない。きょうは夜に通話。それまでにやっておきたいこととしては、(……)くんの訳文添削がまずある。先週できずに二つ分溜まっているので、両方でなくともひとつはやってあした渡さなければ。床もまた汚れているのが気になっており、とくに机の下のコットンラグが食べ滓とかでかなり汚れているので掃除もしたいがどうか。日記は一五日までは済んでいるので一六日いこうを書きたいが、きのうのことは書くことがおおくてたぶんもとよりきょうには終わらないからそう焦ることもない。あと口座振替手続きをおこたっていたために滞納してしまった九月分の家賃をできればさっさとはらっておきたいし(コンビニに行かなければならないのだが、この雨のなかそとに出るのも一興だ)、(……)(いとこ)から入籍してのお披露目会というか食事会へのお招きのSMSもきのう届いていたので(おとうとの(……)もここで入籍したらしい)、返信しておかなければならない。パニック障害で会食がこわいのですまんが欠席させてもらうつもりでいる。


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 この日曜日はあと夜九時から通話したことくらい。(……)
 (……)