2016-01-01から1年間の記事一覧

2016/11/24, Thu.

朝になって、布団に入ったまま上体を起こすと、窓の向こうで、数日来の予報通りに雪が降っている。ガラスの左下は結露に覆われてぼやけ、それでなくとも夏に育った朝顔の、萎びた残骸のくっついたままのネットが視線を妨害するが、それでも隙間から、近所の…

2016/11/23, Wed.

室内は薄暗く、外は曇りらしい。カーテンをひらいて、腰掛けたベッドの縁から振り向くと、毛布のような青い雲がなだらかに、空を寝床のようにして覆って窒息させんばかりだが、山際に少しだけ、空気を吸えるような細い地帯が残っており、そこのみ朝の暖色を…

2016/11/22, Tue.

出ると、空は、人工的な球体の内側に閉じこめられているかのように、滑らかで澄んだ淡青に乱れなく染まっている。林の樹冠に差し掛かった太陽は露わで、空気は暖かく、風も戯れのような緩さで、快く肌を擦る。タオルやシャツ類を取りこんだあと、二本の傘を…

2016/11/21, Mon.

外は濃い灰色の曇りであり、雨がいつ降ってもおかしくない気配である。これは最後の覚醒の時だったか、それよりも前のことだったかはっきりしないが、その静まった灰の一色に押し固められた窓外に目を向けながら、もう朝が来たのか、と思った瞬間があった。…

2016/11/20, Sun.

ベランダに出ると、大気は相変わらず肌に柔らかく、空は薄白さに侵食されて淡青が殊更淡く消えかかっているが、洗濯物には水気はない。仰ぐと、太陽は真っ白な地帯のなかにさらに一層、目を細めさせる純な白さを塗り重ねて、既に林の頭に接していた。

2016/11/19, Sat.

空中を見やればかすかだが雨粒が漂っているので、黒傘を持った。道路の上には色とりどりの落ち葉が、両端は路面を隠すほどに敷かれて、道に並行して帯を二つ作り、こちらが足を進めるそのあいだにも避ける隙間のないくらいに散って、濡れて暗んだ赤や黄色を…

2016/11/18, Fri.

もう一つには、何か学校のような、あるいは城のような大きな建物の周りを、歩き回っていた夢があった。あたりは草が生い茂っていたはずである。自分一人で、ほかに人影が見えないのを不気味に思って、人を見つけようとしていたような覚えもあるし、それとは…

2016/11/17, Thu.

アイロン掛けを終えるとソファに就いて、外を眺めてみれば、前日よりは雲の薄い空で、一面を埋め尽くすほどの量はなく、頻繁に綻んで清涼な小川めいた青さが覗いている。 * 坂を上って行くと、空気はもはや冬にかなり接近した冷たさで、上着を着ていても肌…

2016/11/16, Wed.

シャツやエプロンに器具を当てながら、例のごとく窓外を見れば、南の山は橙や臙脂の色がところどころに差しこまれて、斑に彩られており、鮮やかではあるが、それを囲む緑も含めて目に触れるのは老いた乾きの感触で、まるで黴のようでもある。陽射しがあれば…

2016/11/15, Tue.

職場を出て駅前を回りながら、ロータリーの真ん中に向けた視線が、気早にクリスマスムードを演出しようと言うのだろう、刈りこまれた植込みに配された電飾を見つけて、以前から光っていたはずだが、ここで初めて気付いたようになった。きらきらと光ってはい…

2016/11/14, Mon.

何をするでもなくただぼんやりとしながらものを口に運んで、ふと目を上げると、兆しはじめた薄い陽射しを、窓際の飾り時計が壁に反映させているのが知覚に捉えられた。飾りが回転するのに応じて、湯気のように、あるいは熱湯のなかで踊る溶き卵のように、柔…

2016/11/13, Sun.

一二分を座っているあいだ、窓を閉めていても外から鳥の鳴き声が耳に届いて、空気もなんとなく動きのあるようで静寂が耳に痛いほどの夜とはやはり違って、こちらのほうが同じ瞑想をするにしても気楽で面白い。窓から入ってくる光も、顔の左側に貼り付いて熱…

2016/11/12, Sat.

枕に頭を戻した時の視界の最奥、ベランダの向こうに立った隣家のさらにその先に、道沿いの林の木が陽射しを受けて艶めいているのが、目に入った。風をはらんで内側から膨らむように、葉が蠢くと、そのなかの到るところに散りばめられた白点が、クリスマスに…

2016/11/11, Fri.

手もとの服の皺を伸ばしながら視線を上げて外を見やると、雨はかすかに降り続いているようで、解像度の悪く細かなノイズが走るテレビ画面のように、空気はぶれている。空は真っ白で、中空に鈍い空虚が漂っているが、そんななかでも川沿いの木の一つがもうよ…

2016/11/8, Tue.

駅に着いてホーム上を歩きながら、小学校の裏の丘のほうに首を傾けると、折り重なった石段の頂上の端、校舎の脇に一本、年若げな緑のなかに黄色い点をぽつぽつ散らせた木が直立している。そうか、あれは銀杏の木だったかと思いだして、尖った頭の先まで秋に…

2016/11/7, Mon.

左の民家の向こうに併走している線路の脇には、芒が群生して、やや茶色混ざりの濁ったような白の花穂が、動物の尻尾めいて弱い風にゆらゆら振れながら、空間の只中に摩擦を仕込んでいる。そのさらに向こうに伸び立って林を作っている木々の仲間たちの、いく…

2016/11/4, Fri.

卵とハムを焼いておかずにし、卓に就いて新聞を読みながら食べた。南窓はひらいて明るさが入りこんでおり、ページをめくればその際に、窓辺の水晶玉の弾く虹色の斑点が平板な色の紙の上にも、一点灯って逃げる午前である。食器を洗い、風呂洗いも済ませたの…

2016/11/2, Wed.

最後の乗り換えを待つ必要があったので、ベンチに腰掛けて読書を続けた。周りは風の音も立たず虫の音もなく静かで、空気が動けば冷たい感触が、ページを押さえる手の表面に宿るが、その大気の揺動は、電灯の下に佇む木の葉を揺らすほどの強さもない。その木…

2016/11/1, Tue.

行きと同じく肌寒い夜道だが、冷気は肌の表面を覆うのみで、その先の皮膚の奥にまで突きこんで来る力はない。気温も落ちて虫も消えたかと、革靴の足音の反響するなかを行っていると、その固い音の裏に隠れるようにして、遠くから虫の、しかしいっとき豊かに…

2016/10/31, Mon.

二度寝の危険は去ったものの、起きあがる力を身に引き寄せるまでにはまだちょっと掛かって、そのあいだに窓外に目をやっていると、川の流れを遡るように、白雲に包まれながら太陽が滑って行くのだが、うっすらとした円形のその姿は夕刻の西空に雄々しく膨ら…

2016/10/28, Fri.

少し前から室内がよほど暗く沈んでいたので、明かりを灯していた。五時が近づくと、窓ガラスに部屋の様子が反射して、ベッドから見上げると中央に白く光る蛍光灯が映りこみ、アサガオの蔓の途中に割りこんで、その一部を途切れさせてしまうのだった。

2016/10/27, Thu.

洗濯物を取りにベランダに出ると、大層良い天気で光が空間に満ち満ちており、大きめのバスタオルを持って室内に入れば、外から射す陽射しがその表面に白く溜まって、目が眩しいくらいだった。 * 黄昏れの広がる道を曲がりざまに西空に目を向けると、緑をは…

2016/10/26, Wed.

アイマスクを顔から取って、カーテンをひらいてみると、ガラスのなかは隅まで一点の乱れもなく、なだらかな青さが染み渡っており、その上に乗った古茶色のアサガオの残骸と緑色のネットを浸さんばかりだった。太陽はまだ窓枠に近いほうで幕の裏に隠れている…

2016/10/25, Tue.

傘を差して出発である。坂の木々の合間からは空に均一に薄青さが残っているのが見えるが、ちょっと離れただけで木の姿は霧がかった空気に乱されている。街道に出ると向かいから、二つの目を皓々と灯し膨らませた車が次々と流れてくる。距離が置かれていると…

2016/10/24, Mon.

窓に掛かったカーテンは、真ん中あたりを細く中途半端にひらいている。読みはじめの頃には、本のページ上に陽の色が広がっていたのが、そのうちに上端に引いていったのは、光の源が西へとじわじわ移っているのだ。その頃には太陽はカーテンの際まで来て、あ…

2016/10/23, Sun.

気温は低めでソフトジャケットを羽織ったが、坂を上って街道を歩いているうちに、服の内の温もりが涼気に勝りはじめた。葉書をポストに投函してから裏に入り、ボールのように膨らんだ鞄を提げながら、進んで行く。前日も見た民家の塀の内の小さなサルスベリ…

2016/10/20, Thu.

快晴の日で、カーテンをひらくと眩しい光が射しこんできて、二枚の布団に覆われていては暑く、窓をひらいた。そのまままどろんで、顔に熱線を受けて、瞼を薄くひらいてみると、空は光が満ち満ちているせいで青さが薄まり、まるで実際とは反対に薄雲が全体に…

2016/10/19, Wed.

肌寒さはなく、むしろ少々蒸すくらいで、着けたベストも不要だったかと思われたくらいだが、光はなく、街道に出て見上げると青灰色の雲が縁まで押し広がって空を浸しているばかり、中空に目を向けてみても、まだ四時前のわりにひどく澱んで暗い感じがした。 …

2016/10/18, Tue.

自転車を駆って出発した。だいぶ黄昏れてあたりは沼のなかのようだが、ベストを着けないワイシャツ姿でも寒さはなく、立って漕いでいると背中から温もりが湧くくらいである。この日も下校中の学生たちが横に広がっていそうな街道裏は取らず、町の南側、下の…

2016/10/17, Mon.

前夜は午前四時にもなってようやく床に入ったのだった。六時間で何とか覚めたいと、一〇時に仕掛けた目覚ましによって目論見通り覚醒することができた。二度寝に立ち戻ることも避けられたが、携帯電話を弄りながら一時間を床に貼り付くことになった――むしろ…